第一の襲撃(1)

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 それからまたしばしの時間が経ち。セイディは三つ目の神殿での仕事を終えていた。前二つの神殿と同じように、祈りを捧げ光の魔力を披露する。本日は合計四つの神殿を回ることになっており、次で最後だ。腕時計をちらりと見れば、時間は午後三時。この調子だと夕方の五時には終わるだろう。 (なんていうか、準備の方がずっと大変だったのよね……)  愛想を振りまきながら、セイディは内心でそう思う。準備には二週間以上の日をかけていた。それに、騎士や魔法騎士たちは四十日も前から準備を行っていたのだ。それに比べ、本番はたったの三日。しかし、この三日間は最大限の警戒をしなくてはならない。だから、気を緩めることは絶対に許されない。自身の役割が、ある以上。  心の中で気合を入れ直し、セイディがまた馬車に乗り込もうとした時だった。  不意に、知り合いの声がセイディの耳に届いたような気がした。いや、違う。彼は知り合いなどではない。セイディからすれば敵なのだ。 「……アーネスト様」  目を瞑って、全神経を聴覚に集中させる。聖女の力を使っているときは、全体的に感覚が鋭くなっていたりする。そのため、聴覚に神経を集中させれば、アーネストのいる方向が分かるはずだ。そう考え、セイディは耳を澄ませる。民たちの喧騒の中、確かに聞こえたその声。そのため、セイディは振り返りとある一点を見つめる。 「……ジャック様」 「あぁ」  セイディの様子から何かを感じ取っていたのだろう、ジャックは何の躊躇いもなくセイディの視線の先を追った。そこには、人ごみに紛れたあの「アーネスト」がいて。彼はセイディたちの様子を遠目から見つめてきているようだ。彼がどんな表情をしているかは、よく分からない。それでもきっと――いい表情は、していない。 「……ここから、離れるぞ」  ジャックにそんな言葉を耳打ちされ、セイディは頷く。もしもここで先頭になってしまえば、民たちにまで被害が及ぶ。それに、アーネストだってバカじゃない。手間を最低限に済ませたいはずだ。ならば、セイディを襲撃するのは――もう少し、閑散とした場所だろうか。
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