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「公爵家の令息が、そんな貧相な女を守るんですね。……確かに、力の強い聖女様かもしれません。それでも、この国には聖女なんて吐き捨てるほどいるでしょうに」
「……それでも、だ。俺は俺に課せられた役目を全うするだけだ。……お前とは、違う」
「俺も、自分に課せられた役目を全うしているだけですよ」
今度は、クスクスと笑いながら。アーネストはそう言ってくる。……確かに、アーネストも自分に課せられた役目を全うしようとしているのだろう。マギニス帝国の皇帝陛下から与えられた役目を全うする。そのために彼は今、ここで自分たちと対峙している。
「お前と、一緒にするな」
「おや、そうですか。けど、俺と貴方は案外似ていると思いますけれどね」
その言葉は、のんびりとした声音で紡がれる。その後、アーネストはブーツでコンコンと馬車の床を数回叩いた。その行動に、一体何の意味があるのかは見当もつかない。それでも、何か意味があるのだろう。
「実は、俺にはどんな手段を使ってでも守りたい存在がありまして。……そのために、こういう風に動いているんですよ」
「……そうか」
「皇帝陛下も、同じだったりしますよ。まぁ、皇帝陛下の場合は『俺たち』とは事情が違いますが」
アーネストの言う「俺たち」とは、皇帝陛下のお気に入りたちのことなのだろう。それは、セイディにも分かった。だからこそ、セイディはアーネストのことをただ見据え続ける。自分は今、お荷物に近しい存在だ。ならば、自分は大人しくする。万が一の時のために、治癒の準備はしておくが。
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