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「無駄な抵抗は、本当に止めていただきたいんですけれどね。……俺も、暇じゃないんで」
「だったら、引いてくれるとありがたいな」
「残念ですが、それは無理です。皇帝陛下はこの王国を侵略することをお望みです。俺に、それをひっくり返す力はないので」
淡々と交わされる会話。でも、何処となくジャックの声は揺れている。やはり、かなりの負担がかかっているのだろう。それが分かったからこそ、セイディはやはり少しでも力になれないかと考える。こうなったら、やはり――アーネストの気を逸らすしかないだろう。
「……アーネスト様」
ゆっくりと目を開いて、セイディはアーネストの名前を呼んだ。そうすれば、アーネストは「どうしましたか?」と問いかけてくる。その動きに、乱れはない。視線はジャックだけを見据えており、セイディを見ることはない。……罠にかかるつもりは、ないらしい。
「……一つだけ教えてください。貴方は、皇帝陛下は、何をお望みなのですか!」
出来る限り、強い口調で。怯まないように。それだけを自分に言い聞かせ、セイディはアーネストのことを睨みつけながらそう問う。
「……面白いことを、教えてあげましょうか」
セイディの問いかけを聞いてか、アーネストはそこで一旦言葉と攻撃の手を止め、自身の前髪をかき上げる。その目が、じろりとセイディを睨む。その目には、強い狂気が宿っているようにも見えた。
「俺は皇帝陛下とメリットデメリットで繋がっている。それは、以前言いましたよね?」
「……そうですね」
「じゃあ、もう一つ、教えて差し上げましょうか」
――皇帝陛下は、たった一人のために動いておいでです。
そう言って、アーネストはクスっと笑う。その笑い方は、何処か不気味なものであり、セイディの背筋に冷たいものが走ったような気がした。
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