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(たった一人のために、こんなにも周囲を犠牲にするの?)
アーネストのその言葉を聞いたセイディは、そう思ってしまった。マギニス帝国の皇帝は、たった一人のために、全てを壊そうとしているのだろうか。そう思ったセイディが抱いた感情は――確かな怒り。そして、それに協力しているアーネストの異常性。
「……お前、そんな奴に協力して何になる」
ジャックも同じようなことを考えていたのか、目を見開きアーネストにそう問いかける。その問いかけを聞いたためだろうか、アーネストは静かに「……俺に、メリットがあるから、ですね」と答えていた。
「俺はメリットのあることでしか動かない。あのお方に協力した方が、メリットが多い。そう判断しただけですよ」
でも、アーネストの回答はぶれない。それを聞いて、セイディは思う。やはり、アーネストと自分たちは考え方が根本的に合わないのだと。つまり、説得も無意味なのだろうと。彼は、自分にメリットがあることを提示されない限り、セイディの言葉に耳を貸そうともしないはずだ。
「……たとえ、誰に否定されたって構わない。俺たちは――自分の大切な存在を守るために動くだけですから」
なのに、そう言ったアーネストの目は何処となく揺れていた。それを見た時、セイディは初めてこの人物に人間味を感じた。この人物には、心などないのだと思っていた。が、どうやら彼にも心はあるらしい。……それが、変な方向に動いているだけであって。彼らには彼らなりの正義があり、それを正しいと信じて突っ走っている。それが、分かったような気がした。かといって、彼らの考えに同意することは出来ないが。
「さて、残念ですがそろそろ時間切れの様ですね。……俺は、撤退します」
「あ、あのっ!」
「これで、終わるとは思わない方が良いですよ。俺たちは皇帝陛下の命令に逆らうつもりはありません。とりあえず、この祭りを滅茶苦茶にすることが、今の狙いですかね」
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