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それだけの言葉を残したアーネストの姿は、ゆっくりと消えていく。これもやはり、転移魔法だろう。心の奥底でそう思いながら、セイディは消えていくアーネストの目を見つめていた。彼の目は、とても美しい。でも、狂気を宿している。それはまるで――信念にも、見えてしまう。
そして、アーネストの姿が完全に消えた時。ジャックが、その場に崩れ落ちた。それを見て、セイディは慌てて彼に駆け寄る。
「ジャック様!?」
「……心配するな。少し、疲れただけだ」
セイディがジャックの手を掴めば、彼はそう言って少しだけ笑う。いつもならば、この手を振り払いそうなのに。きっと、今はそんな元気もないのだろう。先ほどまであれほど激しい攻防戦を繰り広げていたのだ。当たり前だろう。
「あの……魔力を」
「いや、必要ない。……お前は、自分の仕事を全うすることだけを考えろ」
ジャックに自身の魔力を送りこもうとすれば、ジャックはそれを拒否してくる。その後、「俺のことは、気にするな」と言って馬車の椅子に腰かける。そのため、セイディも定位置に戻った。
馬車の内部はかなり荒れている。それは、先ほどの戦闘の激しさを物語っているようだった。天井には大きな穴が空き、これを弁償するとなると完全に気持ちが沈む。……せめて、経費で落ちないかなぁと思うが、騎士団の経費でも魔法騎士団の経費でも無理だろう。
「……あの男、かなりの実力者だったな」
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