一日目の終わり(1)

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 リリスは、最後に自分の出自を明かしてくれた。その内容は、セイディよりも悲惨な境遇に聞こえるもの。セイディは自分の境遇をそこまで可哀想だとは思っていない。だが、リリスは別だろう。皇女として生まれたのに、待遇は悪く、挙句帝国に利用されていた。それは、可哀想と言っていいレベルのものではない。 (何が、皇帝陛下を動かしているの?)  アーネストは言っていた。皇帝陛下はたった一人のために動いていると。その一人が、誰なのかは想像もできない。そして、どんな人物なのかも。もしかしたら、その誰かは傾国の美女のような存在であり、中身は悪女なのかもしれない。皇帝陛下を傀儡にし、自分の欲望を満たそうとしているのかもしれない。そう思ったが、その可能性は排除した。その場合、人はついてこないであろうから。 「……私に出来るのは、明日も明後日も頑張ることだけ。……ジャレッド様のことも、何とかしなくちゃね」  このままだと、あまりにも可哀想だ。……もちろん、ジャレッドがというわけではない。自分に良くしてくれた神官長が、である。ジャレッドのことは、正直に言って結構どうでもいい。確かに多少思うことはあるが、そこまでではない。  そんなこんなを考えていると、不意に部屋の扉がノックされた。時計を見れば、時刻は午後八時半。こんな時間に訪ねてくる人間など、ほとんどいないはずだ。怪訝に感じながらセイディが「はい」と返事をすると、現れたのはミリウスだった。彼は、未だに騎士服を身に纏っている。 「よぉ、元気か?」 「……元気かって……」  彼と連絡が取れれば、自分とジャックはあそこまで苦労しなくてもよかったかもしれないのに。そう考えてしまうと、軽い殺意が湧いてくる。でも、その感情を抑え込み、セイディは「……元気といえば、元気、ですかね?」と疑問形で言葉を返した。 「と言いますか、ミリウス様は一体どうして……」 「いや、セイディの顔でも見に来ようかと思って」 「……こんな時間に、することじゃないですよね?」  こんな時間にやってきたら、いろいろな意味で勘違いされるぞ。それを教えようかと思ったが、セイディはただ口を閉ざした。彼は規格外だ。だから、自分が何かを言っても無駄だろう。そう、思ったから。
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