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「いいんだよ、ここ、俺の家だし」
「そりゃあ、そうですけれど……」
ミリウスのその言葉に、間違いはない。ミリウスは確かに王族であり、この王宮の主の一員である。ならば、もう細かいことは気にするべきではないな。そう考え、セイディは何も言うまいと口をつぐんだ。そうしていれば、ミリウスは「ちょっと失礼するぞ」と言いながら部屋のソファーに腰かける。……この時間に、寛ぐな。心の中でそう悪態をつきながらも、セイディはミリウスの目の前に腰を下ろした。さすがに、立ったままの会話はいただけない。
「……アーネストの奴、何か気になることは言っていたか?」
アーネストは、特に変なことは言っていなかった。あえて言うのならば、皇帝陛下はたった一人のために動いている。気になることはそれくらいだろうか。が、あの場にはジャックもいた。ジャックならば、すでにミリウスにあのことを報告していてもおかしくはない。そう思い首を横に振れば、ミリウスは「そっか」とだけ零す。
「ジャックの奴からも報告は受けたが、いろいろと面倒だな。……皇帝陛下に直談判しに行きてぇわ」
「……無理ですよね?」
「あぁ、もちろん無理だ。俺にもさすがに限界がある」
自分の力を過信しないことは大切だ。セイディは、アシェルにそう言われた。その注意はミリウスにも当てはまるので、彼がこの場で「大丈夫だろ」なんて言ったら、全力で止めるつもりだった。自分にできることは、それくらいだから。
「さて、と。セイディ、明日は頼むぞ」
「……はい」
「ジャックにもアシェルにも散々言われた。セイディを放り出すなと」
それは何度も聞いた愚痴だ。そんなことを思うが、きっとそれがミリウスにとってかなりのストレスになっているのだろう。それが分かるからこそ、セイディは何も言えなかった。自由気ままで人に縛られることを嫌うタイプの場合、束縛は間違いなくストレスだ。特に、ミリウスはその傾向が強そうだというのも、関係している。
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