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「……心の弱さに付け込んでくる奴が、一番悪いぞ。けどさ、付け込まれる隙を作る奴も、ある程度悪いと思う」
「そう、ですか」
「ま、それは俺の立場だから言えることだけれどな。……実際、俺が大切な奴がそういう状況になって、冷静でいられるかどうかは分からねぇ」
ミリウスのその言葉に、セイディは息を呑む。だが、何処となく言葉に違和感がある。……もしかして、だが。
「……ミリウス様は、私がジャレッド様に未練があると、お思いですか……?」
その口ぶりだと、そう思っても仕方がない。そんな意味を込めてそう問いかければ、彼は「全然」なんてあっけらかんと笑いながら言う。だったら、先ほどまでの言葉は何だったのだろうか。
「セイディとあの男じゃ、タイプが全然違うわけだしな。セイディが好きそうなタイプじゃねぇし」
「……はぁ」
「お前、どっちかっつーとクリストファーみたいな奴が好きだろ?」
……それは一体、どういう意味だ。内心でそう思い疑問符を心の中で浮かべていれば、ミリウスは「アイツのこと、振っただろ?」と前触れもなく言う。……何故、バレている。
「アイツ、侯爵家の嫡男だし、恋仲になればそれ相応のメリットがあるのに。……どうして、振った」
どうして、なんて。そもそも、その理由はミリウスに言うべきことではない。万が一言うことがあったとしても、その対象はクリストファーだけのはずだ。赤の他人であるミリウスに、言う理由なんてこれっぽっちもない。
「どうして、って問われましても……」
「やっぱり、利用するのは辛いか?」
けらけらと笑いながら、なのに、突き刺すような視線がセイディを射貫く。……とても、心地悪かった。
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