一日目の終わり(3)

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「何!?」  やはり、先ほどの音は気のせいではなかったのか。そう思いながら、セイディは割れた窓ガラスの方に視線を向け、恐る恐る近づいていく。あの音に気が付いたのか、護衛の騎士たちが「セイディ!」と言ってセイディの元に駆けよってくる。 「……何が、あった?」 「分かりま、せん。ただ、ガラスが割れて……」  ガラスの方に近づこうとするセイディを止め、一人の騎士が自ら近づいていく。その様子を眺めていれば、一人の人間が堂々と窓から部屋に入ってきた。その人物は「あー、面倒くさい」なんて言いながら髪の毛を掻く。その髪色は――白銀のような銀色。うっすらと開かれた目の色は、血のようなどす黒い赤。禍々しいオーラを醸し出す、まるで人間味のない人物。 「あれ、もしかして、ここかよ聖女の部屋って」  その人物は異常なほどに穏やかだった。ただ大きなあくびを噛み殺し、大きく伸びをする。その後、セイディと騎士を見据えた。その人物は肩をバキバキと鳴らしながら「へぇ」と挑発的に笑う。口元に見えたのは――牙。 「……誰、ですか」 「誰? そういうの、訊いちゃうわけ?」  その人物の声は、低かった。地を這うような低さではない。ただ、何処となく不安を煽るような声なのだ。 「……俺、ジョシュアっつーの。ジョシュア・ロジェリオ・フライフォーゲル」  そう名乗ったその人物は、セイディのことをその真っ赤な目で見据えてくる。二つの、名前。つまり、彼も帝国の人間。それから、たった一つだけ分かることがある。この人物は、ただの人間ではないと。 (あの牙、この容姿。……間違いない。吸血鬼の血を引いているわね)  今度は首を動かし準備運動をしながらセイディを見据えてくるジョシュアは、ニヤッと好戦的に笑う。 「俺、強いけど。この世で一番、な」 「ひぃっ!」  騎士たちの、悲鳴が聞こえてくる。その動きはほんの一瞬だけであり、たった数秒で騎士たちがその場に倒れこむ。それを見て、セイディはただ身構えた。 (多分、アーネスト様が呼んだのが――このジョシュア様)  そして、そんなことを確信した。
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