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(アーネスト様よりはお話は通じそうだけれど……でも、無理ね。このお方も、歪んでいる)
心の中でそう零し、セイディはまっすぐにジョシュアを見据えた。彼は、間違いなく吸血鬼の血を引いている。吸血鬼とは、一部の国で迫害されてきた存在だ。その中に、マギニス帝国も含まれていた。……もしかしたら、これは彼なりの復讐なのかもしれない。それから彼の言う恩人への、恩返しなのかもしれない。
「……正直、俺はお前を殺すことに乗り気じゃない。……アーネストの奴はお前を始末しろと言っていたけれどさ、どうにも気乗りしない」
セイディの考えを無視して、ジョシュアはそう続ける。そして、彼は少しだけ考えたのち「……でも、ブラッドリーの奴の意に従わないと、俺はアイツを守れない」と零していた。
「だからさ、大人しく――やられてくれねぇかなぁ?」
そう言ったジョシュアの表情は、清々しいほどの笑顔だった。だからこそ、セイディは静かに息を呑む。首元に突き付けられたジョシュアの爪。それは、今引っかかれればかなりの致命傷を負うことは確実で。……彼は、月の光に照らされたその銀色の髪を風になびかせながら、セイディのことを見下ろしてくる。
「あんまり、俺たちの手を煩わせるな。……それが、俺が出来る最終忠告だ」
「……そう、ですか」
目を瞑って、セイディはそう返事をする。が――一瞬の隙を突いて、ジョシュアと壁の間からすり抜ける。しかし、すぐにジョシュアに手首を掴まれ、床に押し倒されてしまった。
「……逃げようたって、上手くはいかねぇぞ。俺の身体能力は、バケモノだ。……女一人逃がすほど、甘ったれたもんじゃない」
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