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「まぁ、そういう話は置いておくとして」
セイディがいろいろな感情を抱いていれば、ミリウスは突拍子もなくそう言うとセイディの目を見てくる。その目はやはり何もかもを見透かしたような雰囲気であり、その所為でセイディは微妙な気持ちになってしまう。何が、とは言わない。ただ、いろいろと思ってしまうのだ。
「昨日のジョシュアって奴のことだが……」
どうやら、話の内容が百八十度変わるらしい。でも、その話は必要なことだろう。それが分かるからこそ、セイディは「どう、なさいましたか?」と問いかけてみる。そうすれば、ミリウスは「まぁ、いろいろと厄介だよな」と言ってくる。
「吸血鬼って、結構弱点がないんだわ」
「……そう、なのですか?」
「あぁ、身体能力が人間よりもずっと高くて、特別なデメリットもない。太陽の光がダメとか、あれ所詮妄想だな」
その話は、セイディも知っていた。吸血鬼は太陽の光や十字架を苦手とするという。しかし、今のミリウスの話を聞くにそれは妄想らしい。
「特に、ああいう人間とのハーフが面倒だ。数少ない弱点もほぼカバーされていてな。……正直、倒せるか分かんねぇ」
「……ミリウス様、でも?」
「あぁ、正直ドラゴンよりも厄介だと思う」
ミリウスがそう言うということは、実際それだけ厄介なのだろう。そう思いセイディが「……どう、すれば」と一瞬だけ不安になってしまえば、ミリウスは「でも」と言って大剣に手をかける。きっと、これが彼なりの決意表明なのだろう。
「俺は、負けねぇ。ジョシュアの奴がこの世で一番強いとか、ありえねぇって思うし」
そこで一旦言葉を切り、ミリウスは「俺が、一番だし」なんて言葉を漏らしていた。いや、そこは張り合うところなのか? そう思うセイディを他所に、ミリウスは「なんてな」と言いながらゆっくりと歩を進める。
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