逃げずに向き合うから

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 それから約三十分馬車は走り、ゆっくりと止まった。それに気が付き、セイディは馬車の窓からこっそりと外を見つめる。  セイディの視線の先にあるのは、これまた歴史を感じさせるような神殿。どうやら、一ヶ所目の神殿にたどり着いたらしい。 「おっ、着いたか?」 「はい」  セイディの様子を見つめ、頬杖をついていたミリウスがそう声をかけてくる。だから、セイディは頷いた。外では民たちが集まり始めており、どうやら聖女の登場を今か今かと待ち望んでいるようだ。……この瞬間は、二回目の今日でも慣れないものだ。内心でそうぼやいていれば、御者が馬車の扉を開けてくれる。そのため、セイディはゆっくりと地面に足を降ろした。  その後、ゆっくりと顔を上げれば湧き上がる民たちの歓声。それを聞き、セイディはゆっくりと一礼をする。後ろではミリウスが護衛としてぴっちりとついてきており、そういう点も慣れない。 (こうやって高貴な男性を従えていると、本当に悪女にでもなった気分よ)  そう思っていないと、緊張で朝食べたものが逆流してきそうだった。毎年のように聖女としての活動は行っていたものの、代表聖女ともなれば周囲の期待が違う。もちろん、期待には沿うつもりではあるが、出来ないところはご愛嬌……で誤魔化せないだろうか? まぁ、無理だろう。  神殿の神官たちが先導する道を歩きながら、セイディは民たちに笑顔を振りまく。笑顔を振りまくこと自体がなかなかないことだったため、笑顔がひきつっているであろうことには気が付かないでほしい。これでも、昨日よりはマシになったのだ。心の中で一人そんな言い訳をしながら、セイディはじっと民たちの顔を見渡す。 (アーネスト様、ジョシュア様はいないわね)  彼らのような整った容姿を持っていれば、民たちに紛れていても一瞬で分かるはずだ。実際、昨日は見つけられたのだから。そう思いながらもセイディは神殿の中に入っていく。神殿の中では、昨日と同様にその神殿の神官長が待機しており、セイディのことを歓迎してくれた。
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