逃げずに向き合うから

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「我が神殿へようこそ、聖女様」  定型文のあいさつを交わし、セイディはゆっくりと祈りを捧げていく。この祈りとは、王国の豊穣に感謝をし、来年の豊穣を祈るものだ。こうすることにより、聖女への信仰を廃れさせない目的がある。聖女の力で、王国が豊穣している。そう印象付けるための、お祭りでもあるのだ。 「来年も、どうかよろしくお願いいたします」  後ろから熱いような視線を感じるのは、気のせいではないだろう。そして、その視線の持ち主も大体想像がつく。他でもない、自身の護衛であるミリウスだ。 「……こういう感じなんだな」  ボソッと聞こえたその言葉には、反応できない。どうして王族であるミリウスが『光の収穫祭』の進行を知らないのかと問いかけたいが、きっと彼のことだ。頭の中からすっぽ抜けていたと言うに決まっている。そもそも、彼は興味のないことはとことん覚えないタイプである。多分だが、あまりこういうお祭りに参加しなかったのだろう。  頭の中に叩きこんだ定型文を引っ張り出し、それを口にしていく。最後の一文を口にした後、セイディは顔を上げる。それから、ゆっくりと振り返った。  神殿の外では民たちが厳粛な空気の中セイディのことを見守っている。それも、昨日と一緒だ。今日も、上手く行きますように。内心でそう唱え、セイディは次に神殿の外に向かおうと足を一歩前に出した。その時、だった。
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