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(――っつ!)
異様な気配を、感じたのだ。慌てて民たちの顔を見渡せば、「彼」はそこにいた。憎悪が籠ったような目でセイディのことを見つめ、今にも飛び出してきそうな男性。
(……ジャレッド様)
そこにいたのは、ジャレッドだった。彼はセイディに気が付かれたと分かったのか、唇をゆっくりと歪める。その後、一歩一歩セイディの方に近づいてきた。
周囲の民たちは、ジャレッドの異様な雰囲気に押されてか、道を開けていく。それで、構わない。民たちに被害が及ぶくらいならば。そう思い、セイディはただジャレッドを見据えた。彼は、この間再会した時と同じような雰囲気だ。……相変わらず、アーネストに操られているらしい。
「セイディ」
「……大丈夫、です」
ミリウスがセイディを庇うように前に立つので、セイディはそれを振り払い前に出る。それにミリウスは一瞬だけ驚いたような表情をしたものの、セイディの顔を見てすぐに表情を真剣なものに戻した。……セイディの意思は、伝わったらしい。
「……お久しぶりですね、ジャレッド様」
しんと静まり返った空気に、セイディの声が響き渡る。それを聞いたためか、ジャレッドは「……そうでも、ないだろう」と言ってまた一歩足を踏み出してきた。だからこそ、セイディは口元を緩めた。……もう、逃げない。彼と向き合うべき時は、今なのだ。そんな考えが、すとんと胸の中に落ちていく。
(……ジャレッド様と向き合う。そして――彼を、正気に戻してみせる)
彼に対して、情に似たような感情はない。しかし、このままだとあまりにも彼が不憫だから。だから、セイディはジャレッドに向き合うのだ。
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