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民たちが異様な雰囲気に困惑する中、セイディはじっとジャレッドを見つめ続ける。そうしていれば、彼はセイディのすぐそばまでやってきた。さすがにここまで接近されると問題があるためなのか、ミリウスがジャレッドとセイディの間に入り込む。それを見てか、ジャレッドは「……どけ」とミリウスに声を投げつける。
「悪いが、これが俺の仕事なんでな。……簡単には、どけねぇ」
ミリウスはジャレッドの態度に眉一つ動かさず、凛とした声でそう告げる。それを聞いたためかジャレッドは、露骨に舌打ちをしていた。
視線だけで民たちを見れば、警護に当たっていた騎士や魔法騎士たちが、民たちを避難させていた。民たちは何が起こったのか分かっていないようだが、避難には素直に従ってくれている。神官や神官長たちもゆっくりとだが、避難してくれている。これで、いい。
「セイディ、お前も逃げてもいいぞ」
「無理ですね」
「そうか。それでこそ、お前だわ」
小声でミリウスと会話をしていれば、ジャレッドが何やら呪文のようなものを唱え、手元に剣のようなものを取り出す。それに対し、ミリウスは自身の大剣に手をかけた。
「邪魔をするな!」
ジャレッドのその叫び声が、セイディの耳に届いた。今のジャレッドは正気じゃない。分かっている。だから、怯むわけにはいかない。そもそも、今までだってジャレッドに怯んだことはないのだ。今までのように、振る舞えばいい。
(多分、何処かにアーネスト様もいらっしゃるはず……!)
この状態のジャレッドを、一人で放置するとは考えにくい。特に、アーネストは慎重な性格のように感じられた。きっと、彼はこの光景を何処かで見つめているだろう。そして――隙を伺っている。それだけは、よくわかって。
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