ジャレッドとの対決(1)

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 視線だけでもう一度周囲を見渡すものの、アーネストの姿はない。内心で舌打ちしそうな気持ちを押しとどめ、セイディはミリウスの様子を窺った。さすがはミリウスと言うだけはあるのか、ジャレッドの攻撃をいとも簡単に流していく。  見方によっては防戦一方なのかもしれない。しかし、セイディには分かるのだ。ミリウスが、わざと攻撃していないと。ただ、攻撃を流すだけにとどめていると。 「邪魔するな!」  ジャレッドの、叫び声が聞こえてくる。その声には憎悪や悪意が籠っており、背筋がぞっとするような不気味さを纏っていた。が、ミリウスは「邪魔をしているのは、そっちだろ」と冷静な声で反論する。 「自分の過ちを認めないで、人に責任を擦り付けているお前には、負ける気がしねぇ」  そんなミリウスの言葉は、セイディの耳にしっかり届いた。その声に息を呑み、セイディはジャレッドの目を見つめた。彼は、いつもおどおどとしていた。傲慢なくせに度胸がなくて、いつだってびくびくしていた。そんな彼は、内心でセイディを疎ましく思っていたはずだ。口うるさくて、自身のことを否定しかしないセイディのことを。 (……私も、心の中ではジャレッド様を疎ましく思っていたわ)  今ならば、それが分かる。ジャレッドと近づこうとしなかったのは、自分も一緒なのだろう。結局、自分たちは両方が互いに近づこうとしなかった。その結果、こんな状況に陥っている。それが分かるからこそ、セイディはジャレッドの金色の目を見つめる。 「くそ、くそっ!」  今のジャレッドの声に籠っている感情は、一体なんだろうか。上手くいかないことへの怒り? 焦り? 苛立ち? 多分、その全部だ。
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