無敵の人――家庭内モンスターとの四十年戦争

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無敵の人――家庭内モンスターとの四十年戦争

 もちろん、僕が子どもの頃に〈親ガチャ〉だの〈毒親〉だのなどという言葉はなかったから、僕はただそれを現実だと受け止めるしかなかった。  僕の母は無敵の人だった。  格闘技の猛者とか、裏社会にも顔が利く権力者とか、もちろんそういう意味ではない。  母は気に入らないと誰にでもケンカを売ったし、直接的な暴力は振るわなかったが、言葉の暴力は日常茶飯事だった。  息を吐くように嘘を吐き、母の周囲はいつも殺伐としていた。  父は母の言いなりだった。母にとって言いなりにならない者は攻撃対象でしかない。  関われば不愉快な思いをするだけだと気づいて、多くの人が母のもとから去った。  僕は母の子どもだから、否応なしに母の庇護下に置かれていた。  いつか絶対この家から出ていってやる!  いつからかそう願うようになっていたが、母との総力戦は結局四十年以上も続き僕の心身を徹底的に疲弊させた。  総力戦の結果?  母は一度も非を認めず、謝ることもなく勝ち逃げ。僕の勝敗はよく分からない。母が死んだとき徒労感しか感じなかったから、たぶん負けたのだろう。
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