無敵の人――家庭内モンスターとの四十年戦争

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 苦悩と徒労の日々がまた始まった。入院していた精神病院に通院し錠剤の薬は処方されたが、目の前で飲ませても母は飲んだ振りして実は飲んでいなかった。母の症状は悪化の一途をたどった。  母が一人で暮らす隣家に行くと、張り紙がたくさん貼ってあり、  「隠れてないで話し合いましょう」  と全部の張り紙に同じような文面が書いてあった。原付に乗っていたら通せんぼされたとか、クラクションを鳴らされたとか、被害妄想もひどかった。  そのうち母は広い家を出て、近くの古アパートの一室を借りて引っ越していった。僕の目が届きにくくなり、母はさらに好き放題に行動するようになった。近所の市役所の支所に押しかけて大騒ぎしたり、いろいろな人に迷惑をかけた。  精神病院に再入院させるのが一番いいが、いまだに自分が精神病であるという自覚がなく、何より自由を奪われる入院を恐れる母は二度と僕と一緒には車に乗ってくれないだろう。母はずっと彼女を統合失調症だと診断した医師をヤブ医者だと文句を言っていた。医師を含めて多くの人が無実の自分を悪意から陥れようとしていると信じていた。
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