無敵の人――家庭内モンスターとの四十年戦争

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 とはいえ、そんなエピソードは小さなこと。良妻賢母を自称しながら、母は父が亡くなるずっと前から不倫していた。男の方が年下に見えたが、おそらく彼にも奥さんがいただろうからいわゆるW不倫。彼が大企業の正社員だったのをいいことに、母は男にいいように貢がせていた。  なぜか母は男物のブランド腕時計を彼にねだり、それを僕に与えた。捨てようとも思ったが、母の死後、ほかに母の遺したものがないことに気づき、母の形見として今も手元に置いてある。ちなみに父の形見はない。僕は二人の子どもたちに何を遺せばいいのだろう? 何も遺せないかもしれないが、不倫はしないでおこうと思う。後年、母が不倫相手の男と撮った大量のツーショット写真を目にしたときのなんとも言えない思いは、僕の子どもたちには味わわせたくない。  ただ、母の不倫相手がその男一人だったかどうかは今となっては定かではない。母は死ぬまで携帯電話を持たなかったが、母の自宅の電話に男から電話がかかってきたのを何度か取り次いだことがある。それぞれ違う男からだったが、その男たちの素性を僕は知らない。
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