無敵の人――家庭内モンスターとの四十年戦争

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 父が亡くなったあと、母の食生活はひどかった。コンビニ弁当とか菓子パンだけとか、とにかく炭水化物と脂肪ばかりでタンパク質やビタミン、そしてミネラルが全然たりなかった。もともと骨粗鬆症を疑われていたが、運動不足と食生活の乱れがとどめになったのだろう。転んだわけでもどこかにぶつけたわけでもないのに、母の腰骨が突然折れて歩くのも苦労するようになった。折れるというよりつぶれるという言い方の方が正しかったようだ。歩くのもやっとだから、原付にももう乗れなくなった。行動範囲が狭まり、目が届きやすく、また身柄を押さえやすくなったので、母は悔しかっただろうが、こちらにとっては悪い話ではなかった。  母は要介護認定を受け、週に何日か訪問介護サービスを利用することになった。気性の激しい母の相手をする訪問介護員の方は大変だったと思う。ある日、介護員の方から非常に切羽詰まった口調の電話があった。  「息子さんに渡してほしいと大福を預かったのですが、どうも腐ってるようなんです」  故意か過失か知らないが、今さらその程度のことで驚かない。捨ててくださいとだけ伝えておいた。
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