無敵の人――家庭内モンスターとの四十年戦争

19/22
31人が本棚に入れています
本棚に追加
/22ページ
 母の腰骨の状態はどんどん悪化して、数ヶ月後には一人暮らしできる状態ではなくなり、母は特別養護老人ホームに入所した。母はホームで車椅子を使い始め、移動の際は必ず車椅子を利用した。それを使えば移動できるのだから、母は車椅子にすぐ慣れ、気に入ってもいたようだ。ただ、職員やほかの入所者との関係は良好とは言えなかった。入所者はほとんど重度の認知症患者。母は統合失調症ではあったが知的機能には問題がなく、母はほかの患者を侮りときにひどく罵倒した。  ではなぜ職員ともうまくいかなかったかと言えば、いつもの被害妄想なのだけど、自分のお金を奪われることを恐れるあまり、職員をしょっちゅう泥棒呼ばわりしたから。数ヶ月で僕はホームに呼び出され、ほかの施設に移ってほしいとお願いされた。  運よく次の施設が見つかり、母はその施設に移っていった。僕はホッとしたが、結局そこも安住のすみかとはならず、すぐにまた次の施設を見つけなければならなくなった。  次は重度の認知症患者を対象とした老人病院。そこしか受け入れ先がなかった。母は嫌がったが、そこに入れるしかなかった。  大きな病院だったから多くの入所者が生活していたが、認知症でないのは母一人というありさまだった。僕が見舞いに来るたび、母はここから出たいと訴えた。でもとうとうこの病院で母は寝たきりとなり、母はここから退院することをあきらめざるをえなかった。  その病院ももちろん介護保険を利用できた。母は再度の介護度判定でもっとも重い介護度に認定された。それでも毎月の入院費は十二万円以上。母の貯金も僕の家計も無尽蔵にあるわけはなく、母の奇行の心配がなくなった代わりに、今度はお金の面で僕は胃の痛い日々を送ることになった。
/22ページ

最初のコメントを投稿しよう!