無敵の人――家庭内モンスターとの四十年戦争

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 今までさんざん僕に迷惑をかけた母だが、最期はあっけなかった。75歳のとき検査でガンが発覚したが、父のときと同じくもう末期だった。ほどなく母は意識を失い、ガンを治療できる病院に転院した。母の意識は戻らないまま月日だけが過ぎていく。  ある日、容態が急変したという知らせを受けて僕と妻子の三人で病院に向かった。容態が急変したにしては母の表情は穏やかだった。どういうことだろうと妻と首をひねっていると、医師が病室に入ってきて母の臨終を告げた。なんのことはない。僕らが駆けつけた時点で母はもう死んでいたのだ。もっと早く亡くなっていたのに、死亡時刻は僕らが病室で母と対面した時間とされた。  父のときと同じ斎場で通夜と葬儀を執り行った。喪主と施主は今回も僕。前回と違って兄と連絡がついたので、参列者の一人として焼香してもらった。親戚では唯一、母の姪(僕から見ればいとこ)だけが富山から駆けつけてきてくれたけど、それ以外の親戚からは香典さえ一切送られてこなかった。  参列者は僕の家の近所の人たちと僕の職場関係が中心。ふだんの行いの悪さがたたって、母の知り合いで通夜に参列する者は兄といとこ以外誰もいない。  あまりに寂しいお通夜だったから不倫相手の男にも一応連絡したら、翌日の葬儀に香典を持って現れた。故人が喜んだかどうかは定かではない。葬儀では不倫相手の男に見送られながら、父と同じお墓に入る気持ちってどんなものなんだろう? いつか僕も死んだらあの世で母に聞いてみたいところだ。それをいえば、僕が死ねば母と同じ墓に入るわけか。それもちょっといやだな。
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