無敵の人――家庭内モンスターとの四十年戦争

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 どんなうまい方法を使ったか知らないが、父は多額の借金の踏み倒しに成功した。小学二年生のとき、八丈島を出て静岡県東部の熱海市に引っ越した。それ以来、八丈島には一度も行っていない。行こうとすればいつでも行けた気がするが、行こうという気には全然なれなかった。生まれ故郷の富山と同様に、八丈島の記憶もほとんどない。覚えていることといえば、長い坂道を駆け下りている途中で転んで膝に傷跡ができて何年も消えなかったことと、小学校の発表会で当時流行した〈およげ!たいやきくん〉を一人で歌ったことくらい。  熱海に住み始めた翌年にはさらに近隣の三島市に引っ越した。父も母も忙しい人で毎日帰りは夜遅かった。熱海ではアパート、三島では市営団地に住んでいた。いわゆる鍵っ子だった。  子どもだったから引っ越しばかりの人生に疑問を抱かなかった。同様に両親の人間性にも疑問を感じなかった。
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