無敵の人――家庭内モンスターとの四十年戦争

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 彼女は唖然としていたが、それでも僕と結婚してくれた。母に騒がれたくなかったので、結婚式は挙げたくなかった。彼女も挙式しないことに賛成してくれた。  彼女の両親はすでに亡くなっていて、彼女は両親が遺した御殿場市(裾野のさらに北隣)内の一軒家に一人で住んでいた。そこに僕が転がり込んだ形。また母に発狂されても面倒なので、名字の問題はとりあえず彼女が僕の名字を名乗るということで決着した。〈とりあえず〉と書いたのは、母が亡くなったら僕が彼女の名字を名乗るという展開もあるよね、という話になったから。  ある日、家の外に人の気配を感じて、警戒しながら外に出てみると僕の両親の姿があった。僕らの新居の偵察に来たらしい。  「この家と土地の名義の半分は息子にしなさいね」  母の第一声がこれ。ふたたび唖然となった彼女が怒り出す前に、僕は二人を強引に帰らせた。  その後、子どもが生まれ、自宅は建て替えた。建て替え費用の半分以上は僕が出したから、建て替え後の建物は母の望み通り僕と妻の共有名義になった。もちろん土地の名義は妻単独のまま。
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