無敵の人――家庭内モンスターとの四十年戦争

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 それから数年後、母は父と暮らしていた裾野の自宅に放火した。正確に言えば、押し入れに有り金すべてを押し込んで、母自身も押し入れに入ったところで、火を放った。  性格が怒りっぽいとか、そういうレベルの話ではないんじゃないか? 僕と父が、母が普通でないと初めて自覚したのはそのときだった。  消火が早く火事はボヤで済んだ。母も大火傷は負ったものの一命は取り留め、救急車で病院に運ばれた。母はそのまま入院となったが、警察に殺人未遂を疑われて父は長い時間取り調べを受けた。  僕と父は放火現場から燃え残った紙幣を集め、燃やされても半分以上残っていれば銀行で交換してもらえると聞いて、長い時間をかけて、交換してもらえるか無理かの仕分け作業に追われた。とはいえ、おそらく数百万円分の紙幣が文字通り灰になってしまったと思われる。
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