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「どうやら、閣議が必要なようだな」
王は、口重く言った。
宰相を見据えているところを見ると、閣議とやらは、彼らの悪事を暴く為、なのだろうか。
いや、それよりも今は──。
「外套を!」
いつまでも、雨水が浸水している回廊にひれ伏し、ずぶ濡れになっている女官に波瑠は、叫んでいた。
王妃付きの女官達は、あたふたし、言われたまま外套を取りに部屋へ向かった。
「王妃!何を言っている!」
王が、信じられないという顔つきで、波瑠へ言った。
「ほっとけないでしょ!人はいくらでも必要なのよ!私だって、何か役に立てるはず!」
王、清順の眉は吊り上げっている。
「いい加減にしないかっ!」
そして、波瑠へ、激を飛ばした。
怒鳴り声にもだが、どこか、余裕のない王の様子に波瑠は、驚いた。
いつも、威厳を保ち、波瑠のトンチンカンな発言にも一切動じない王が、今は、怒りに任せて感情をあらわにしている。
「王妃!何も知らないお前が出ていっても、邪魔になるだけだ。そもそも、身重だろうがっ!」
清順の勢いは止まらない。
「そ、それは、身重って言っても……そうだけど……」
確かにそうだ。自覚は一切ないが、波瑠は、身籠っている。
自分の体は、王妃のものだったと、改めて思い出した波瑠は、口ごもった。
「頼む!無茶な事は辞めてくれ!」
清順が、懇願する。
どこか、すがるような眼差しを向けられて、波瑠は、戸惑った。
自分は、王妃で、王の妃なのだろうけれど……。
清順王は、波瑠にとっては、憎き相手のはず。
それなのに、その相手に、心配されている。
そして、波瑠にも、王の言わんとすることが理解できた。
「……あーー、どうすればいいの?!」
波瑠の戸惑いに、陰険な声が被さった。
「ふん、お飾りの王妃は、何もしなくてよいのよ……」
宰相が、顔を背けて言い捨てていた。
誰に聞かせる訳ではなく、きっと、本心というものが、口をついてしまったのだろう。
その言葉に、再び、波瑠の中で、何かが、プツンと切れた。
「外套を早く!おじいちゃん!私を連れて行って!」
波瑠は、崔将軍に叫んでいた。
「邪魔にならなければいいんでしよ!王様は、閣議でもなんでもしてればいい!私は、やっぱり、放っておけない!だから、だから、王様!!宮殿のお米を私に頂戴!!」
「米?!」
譲らない波瑠に、王の顔つきは、厳しさを増しているが、米、と、聞いて、少し唖然としている。
「……米が、欲しいのなら、米を運ぶのならば、王妃、お前はなおさら、出向く必要はないだろう!」
「あーー!炊き出しの手伝いだって、何度言えば分かるの!!男達は、決壊を必死に防止してるのよ!女は、その男達に、働いてもらう為に、食べるものを作るものでしょ?!」
回廊は、王と王妃である波瑠二人の怒鳴り声だけが響いていた。
その、キンキンと響き渡っている言い争いに、崔将軍が、口を挟んだ。
「王妃様。米、だけでも、あれば、現場は助かります。ですから、王妃様は、宮殿にお残りください」
「でも、炊き出しは、大変な作業なのよ!私も、昔、近所のおばさん達を手伝ったことがあるから、良く分かるの!」
昔、手伝ったことが、という波瑠の一言に、王も将軍も、ぎょっとし、つづいて、何の事かと言いたげに、固まり切った。
「あーー、清風川が、氾濫した時、とにかく裏方の人手がいるって、かりだされたの」
「……それは、また、異なこと。清風川は、未だかつて、氾濫などおこしておりませんが?」
嫌みたらしく、宰相が、大声を張り上げた。
(し、しまった!)
今いるのは、同じ国であっても、地代が異となる。そして、波瑠は、波瑠ではなく、王妃なのだ。
「え、えっと、昔、わ、私の国にいるとき、同じ名前の川があって、そ、それが、氾濫したの!」
なんとか、誤魔化そうと波瑠は、必死になった。
ここで、うまく言い繕わなければ、あの宰相が、波瑠を責める。
すると、皆、宰相の口車に乗せられ、今、起こっていることなど相手にしなくなるだろう。
それでは、崔将軍含め、現地で必死に動いている人々が報われない。
波瑠は、自分の言葉に全てかかっているのだと思い、大きく息を吸うと、落ち着こう試みた。
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