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しかし、一番焦っているのは、光琳で、
「ちょっと、波瑠ちゃん!だ、駄目よ!駄目でしょ!」
このままでは、波瑠が余計な事を言い出すと、光琳は、止めに入ろうと正殿側から回廊へ身を乗り出してきた。
が、たちまち、雨が降り注ぎ、衣が濡れてしまうと、さっと引っ込んでしまう。
そのまま、陰険な雰囲気を発している男──、宰相の後ろへ隠れる様に避難して、光琳は、何やら耳打ちした。
「これはまた、いかがなされましたか?王妃様?」
柔らかな口調ではあるが、宰相の表情は、固く、あからさまに、波瑠を睨み付けている。
遠目でも分かるそれに、波瑠は、緊張した。
だが、雨に濡れないよう、のうのうとしている光琳含め、宰相の姿に波瑠は、怒りを覚えていた。
隣の王は、王妃は、気が立っているだけだとかなんだと、相変わらず、ズレタ事を言って、波瑠を部屋へ戻そうとしている始末。
ふと、見た老将は、ぐっしょり濡れたまま、微動だにしないが、その顔つきは、これまでと言いたげで、少し寂しげに見えた。
あまりにも、理不尽な状況に、波瑠の中で、何かが、プツンと切れた。
「……私は、私は、王妃ではなく、波瑠!そ、そう言えと、あそこの宦官に、光琳に、教えられた!」
そう言うと、波瑠は、ビシリと光琳めがけ指差した。
「つ、つ、つまり!私は、王妃なんだけど、何か、おかしな振りをしろって、言われて……え、えっと、そ、それで、王様を騙せって、なんか、しつこく言われて、光琳先生の部屋で、教えられていたの!」
ああ、と、波瑠は息をつく。
王妃らしく、キリリと光琳達の不正を暴きたかったのだが、いかんせん、ただの街娘。どう足掻いても、波瑠に王妃らしい威厳は、出せない。
(だめだ、こんなんじゃ、光琳と宰相の悪事は、暴けないよ……)
ところが……。
波瑠の見かけだけは、王妃。王の側に立っても見劣りのしない、凛とした、色白の面持ちに、化粧を施していれば、かなりの美しい容姿になっている。そして、結い上げた髪には、これでもかと、玉の飾りがついたかんざしをさし、耳飾りに、腕輪にと、じゃらじゃらと装飾品を身に付け、着飾っている。
そのお陰か、どうも、かなりの迫力は出ているようで、指差された光琳は、他の宦官達に驚きの表情を向けられていた。
「王妃……それは、どうゆうことだ?」
さすがの王も、真顔になって、尋ねて来た。
「え、えっと、王の寝首をかいて、私の国にしろ、とか、なんとか、なんか、とにかく、言いなりにされていたの!こ、これも、というか、い、今だって、演じているだけで、す、すべて、宰相の命令!私が、頭を打ってから、どうして、光琳が、近づいて来たのか!そこ、そこ、でしょ!!!」
王は、黙ったままだった。
波瑠は、やはり、自分には悪事を暴くことは無理だったかと肩を落とす。
信じてもらいたい、という前に、自分でも、これはないだろうと分かるほど、子どもじみた訴え方しかできていない。
これでは、話にならないのは、
波瑠にもわかっていた。
そこへ──。
「……なるほど、お国元への脅威を示され、王妃様は、致し方なく、宰相の手下とならざるをえなかった。しかし、この嵐から、民を救う事を一番とお考えになる、その心根の優しから……危険を犯して、我らに、本当の事を仰った……」
そうですな?と、老将が、大きく頷き、王妃こと波瑠を庇うよう、割り込んで来る。
その言葉を受け王は、思うとこがあったのか、厳しい顔つきで、回廊の先、大扉に守られるようにいる宰相と光琳へ、視線を移した。
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