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「ええっと……」
波瑠は、これでもかという、山のような質問に、圧倒されている。
光琳は、波瑠を質問攻めにしていた。
「なるほどねぇ。それで、陛下の寝首を……って、思い付いた訳ね?」
あー、ビックリ!と、光琳は、唖然とし、そして、静かに言った。
「まさか、千年先の世で、そんなにも、陛下が、悪者になってるとは……、けどね、歴史に干渉するのは、あまりよくないと思うの」
「……かんしょう……?」
聞きなれない言葉に、波瑠は、首を傾げた。
「つまり、その時、その場所で起こっていることに、従いなさいってこと。で、ないと、ここで、清順王が、波瑠ちゃんに、ブスッと、やられちゃったら……」
「琦国は、無くなるかもしれない!そして、自分たちの国を持てる!奴婢にならなくていいし、父さんだって、連れて行かれない!!」
バンっと、両手で卓を叩き、波瑠は、おもいっきり、立ち上がった。
「きゃー!波瑠ちゃん!だめよ!!!あなた、身重なんだからっ!!」
「身重??」
「そうよ!王妃様は、陛下のお子を身籠ってらっしゃるでしょ!」
「ん?!」
波瑠は、固まった。身籠ってるって……。
「そんなこと、聞いてないよーーーー!」
「聞いてないって、え?えええーーー!!!」
光琳は、珍しく、慌てた。
波瑠が答える、とんちんかんな事にも、まるっきり、動じないのに。
「ちょ、ちょっと、こ、これは、ちょっと、ちょっと、あーーー!!!」
「うん、リンちゃん、あーーーー!だよっっ!!!」
二人は、こくこく頷き合った。
「ま、まずは、ゆっくりと座って、お茶を、飲みなさい!」
光琳は、自分も茶を口にするが、茶器を持つ指先は、心なしか震えていた。
「……王妃様が目覚めて……様子がおかしい、って、騒ぎになった。そしたら、どうも、私の時と、同じなの。この場所に居る者達には、わけのわかんない事を言っていた。ここには無い、食べ物や、道具の名前を口ずさんでいる……」
これは、と、ピンときた光琳は、気分を落ち着かせるための教育係を願い出た。
願いは、あっさり通る。落ち着かせる教育とは、なんぞやと、誰も疑問に思わないほど、王妃の変容振りに、戸惑っていたのだ。
「うん、リンちゃんが、あなたは、誰なの?って、聞いてくれた時は、すごく嬉しかったっていうか、ほっとした」
「ええ、私もね、医師達の言うように、一時的なもの、だったらどうしようと思って、正直、迷ったわ。本物の王妃様、だったらやだなぁーって」
お高く止まって、わがままで、おまけに、王を、近寄らせない、手を焼く存在だったからだ。
「まあ、それでも、どうにか、懐妊されて、皆、内心ホッとした矢先、だから」
「え?王妃様と王様って……」
「ええ、王妃様のご実家、つまり、国通しは、敵対しているの。まあ、いくさにならないように、同盟……仲良くしましょうって、その証しとして、王様と王妃様は、結婚なさったのよ」
つまり、お互い、割りきりの、政略結婚。夫婦、と、言っても、今一つ、しっくりこないどころか、愛情の欠片もなく、仲は、非常に悪かった。
本来喜ぶべき、懐妊の兆しが現れた時も、王妃は、泣き叫び、癇癪を起こしたという。
「……え、そんなで、よく、身籠れたよね」
「あら、波瑠ちゃん、けっこう、おませさんじゃない!」
意地悪く笑う、光琳に、波瑠は、ち、違うってと、顔を赤らめ、ブンブン首を振った。
「ははは、冗談。そこのところは、義務、と、割りきって、お二人とも、かなり我慢されたみたいね」
ふぅーん、と、波瑠は、思う。そんな、結婚も、あるのだと、そして、王妃が嫌々身籠ってしまった、子供が、少し可哀想に思えていた。
「……だけど、王妃様は、嫌がってても、王様は、凄く喜んでいるみたい」
「そこ、そこなのよ!あり得ない事なのよ!」
光琳は、声を上げた。
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