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裏切り
王妃の懐妊の知らせを聞いても、王は、そうか、と、言っただけだった──。
「思うに、陛下も、ほっとされたんじゃないかしら?義務を、果たした訳でしょ?もう、渋々、王妃様のお相手をしなくて良い訳だし……」
「そんな……」
まだ、膨らみが表れていないお腹に、波瑠は、そっと手を添えた。
波瑠が、身籠っているのは、両親から嫌われている子供だなんて……。波瑠の胸は、切なさに押し潰されそうになっていた。
「でも、波瑠ちゃんが、いえ、王妃様が、目覚めたとたん、陛下も、お変わりになられた。そこの所は、波瑠ちゃんが、一番知っているでしょ?」
「え?」
「聞いているわよ?毎晩、陛下と、戯れているそうね?」
「戯れ?!」
光琳の言いたいことは、例の、王妃による、琦国王への、襲撃の事なのだろうが、それは、波瑠にとっては、戯れでもなんでもない。
建国の王と、呼ばれている清順を無き者にしておけば、琦国という国は、無くなるかもしれない。当然、波瑠達は、奴婢にされたり、悪政に支配されたりすることも無いはず。
波瑠なりに、考え抜いた事だけれど、本当に、その通りになるのか、人一人をどうしようと、別の人物が、現れるかもしれない。それでも、波瑠は、なんとかしたかった。
それなのに、波瑠の襲撃は、すっかり、戯れ、遊びになっており、王は、波瑠の悔しがる顔を、楽しみにさえし始めているらしい。
「それにしても、よくまあ、大胆な事を」
呆れる光琳へ、
「うん、最初の時はもちろん、失敗して、凄く睨まれた。でも、リンちゃんの話で、なんとなく、わかったよ。あの時、王様は、私のこと、相手にしてなかったんだ。言葉も交わさず、さっさと、出ていった。それだけ、王妃様のこと嫌ってたって、ことなのね」
「まあ、反逆罪にならなかった、だけでも、よかったわ。陛下も、内心、どう扱うべきか、迷よわれたんじゃないかしら?本心、なのか、病からの一時的なものなのか。下手に動けば、王妃様のお里も動かれるでしょうし……」
「ん?!皆、このこと、知ってるの?!」
そりゃ、王と王妃のことだから、と、光琳は、笑っていたが、急に真顔になり、波瑠へ言った。
「ねぇ、波瑠ちゃん、王を襲うより、お腹の子供を産んで、正しく育てるって、方法もあるわよ?」
王位は、脈々と続くものだと、光琳は、言いたいようだった。
「じゃぁ……リンちゃん、私……、家へ戻れないって、こと?」
思い詰めた顔で尋ねてくる、波瑠に、光琳は、返す言葉がなかった。
そして、波瑠の、苦悩というべき呟きを、立ち聞きする者がいた。
「……戻れない?……王妃は、遠慮しているのか?里帰りなど、いつでもできるのに……」
執務室から、資料室へ、向かっていた清順は、廊下で、たまたま、波瑠達の話を立ち聞きしてしまった。
帰りたいとの妻の本音を、耳にしてしまい、今宵あたり、負けてやるかと、笑みを浮かべると、足早に立ち去った。
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