王妃の役目

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何事かと、女官達が、恐る恐る部屋の扉を開けたところ……。 「きゃー!水がっ!」 「浸水してるわっ!」 「誰かーー!!」 回廊は、水浸しになり、部屋から女官達が飛び出して来ていた。 皆、寄り添い、流れ込んで来ている水におろおろしている。 水は、どうやら、立ちすくしている回廊のみならず、部屋の中へも入り込んでいるようで、女官達は、慌てて飛び出して来た様に伺えた。 足元を濡らしながら、どうすればと、立ちすくんでいる女官達の叫びで、場は騒然となっている。 その騒ぎと共に、波瑠の部屋にも、じわじわと水が染み込んで来た。 「これは、なんと!」 異変に気が付いた王は、驚き、当然、波瑠の部屋の女官達も、叫び声をあげた。 「浸水してる!皆、貴重品をまとめて!」 波瑠が叫んだ。 しかし、動揺しきっている皆には、波瑠の声など聞こえていないようで、キャーキャー騒ぐだけだった。 きっと、この大雨のせいだろう。だから、浸水したに違いない。そう、波瑠は、理解したが、それにしては、回廊に面している部屋だけが、騒がしい。 宮殿自体が、浸水しているなら、王がいる波瑠の部屋へ誰かが危険を知らせに来るはず、いや、宮殿全体が、大騒ぎになるはず。 どこか、違和感を感じた波瑠は、ふと、気が付いた。 「そうだ!池!池が溢れたんだ!」 回廊は、中庭に面している。そして、大きな池が設えられている。 その庭は、王妃の観賞用に造られた庭であり、王妃が散歩を許されている庭であり、ともかく、王妃の為に造られたものだった。 「どいて!」 波瑠は、確かめるべく、部屋の外へ出た。 あっ、と、皆が、叫び、波瑠を止めにかかるが、すでに波瑠は、回廊に立ち、外の様子を確かめていた。 庭といえる場所全体が、水で溢れていた。 あきらかに、池の水が氾濫し、その水が、回廊、そして、それぞれの部屋へ流れ込んでいるのは、あきらかだった。 「……大雨のせい、なんだろうけど……これじゃ、どうにもならない……」 今更、池の水を汲み出す訳にも行かない。当たり一帯は、じわじわ確実に水位を上げている。 雨が止み、水が引くのを待つしかない。その間、浸水していない部屋へ避難した方が良いのだろう。 「早く、貴重品をまとめて!逃げるのよ!」 波瑠は、再び叫んだ。 「王妃よ!これは、一体!」 追って部屋から出てきた王が、問いかけてきたが、どこか他人事のような素振りに、波瑠は、苛立ち、王を非難する。 「見てわからないの!王様だったら、皆を非難させなさいよ!」 ああ……と、王は、これまた、弱々しい返事をした。 突然現れた王と王妃に、騒いでいた女官達は、ひっ、と、息を飲み、浸水している回廊へ平伏する。 臣下として、礼を尽くしているのだろうが、わざわざ、水の中に這いつくばる皆の姿に、波瑠は、話が通じない相手なのだと理解する。 「いったい、どうゆうことだ!すぐに、調べさせろ!」 王、清順の、これまた、どこかずれた言葉に波瑠は、呆然とした。 これで、良く政を行えるものだと……。 「どうぞ、王妃様の仰る通り、皆様、早くご避難ください!」 ザブザブと、水音をたてながら、浸水している庭を突っ切り、誰かが現れた。
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