既婚者だけど義理の弟と恋してます!!

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 この私に世間を相手とした秘め事ができるなんて思わなかった。  人生何が起こるかわからない。  この家に嫁いで感じたこと。  旦那は厳格でモラハラ体質だ。DV要素も持ち合わせている。こんなに結婚生活がバラ色の反対だなんて思わなかった。  墓場を選び間違えた。時、既に遅し。  同居する義理の父母は仕事熱心な昔ながらの男尊女卑気質。  この家は、昭和で時が止まっている。  世間体とか、そんな上辺で一目ばかり気にしている一家だということに気づいたのは嫁いでからすぐだった。  入籍という箱は甘くはない。簡単に足を突っ込んだらぬけられるものではないのだ。まさに蟻地獄。足を引っ張られ抜け出すことができない。  夫の両親は見て見ぬふり。結婚したからには結婚を継続してほしい。できれば孫がいたらいいのにという感じだが、息子が大事なため、嫁には風当たりは強い。どんなに息子が間違っていても悪いのは嫁だ。息子が間違っているはずはない。そんなことを平気で言う人間だ。  この家庭で人間として扱われていない自分の居場所のなさに時々涙が流れた。  でも、誰にも知られないようにこっそり泣いていた。  実家にも頼れない。  この家に唯一、価値観が自由な陽気な男がいる。夫の弟の優也だ。義理の弟である。  次男坊らしい甘えっこで、いつも笑顔。本当に私の夫、優一の実の弟なのだろうか。  優也は男子厨房に立たずなんていう家風とは真逆で、積極的に好きなもの、食べたいものを自分作り、もてなしてくれる。この家で唯一自由に笑顔をふりまく青年だ。20代前半だろうか。詳しいことはしらないが、旅をしていて、ふらっと実家に帰ってくると聞いた。優也という人間はこの家にはとても珍しいタイプで世間の価値観に縛られることはなく、自然体で生きている。就職も将来も何も心配なく好きなことをしているように思う。実家が金持ちということもあるかもしれないが、それでもよく両親が許したなぁという生き方だ。むしろどうやって説得したのだろう。説得なんてしないで冒険の海原に勝手気ままに行ってしまったのかもしれない。 「おねーさん、一緒に食べない? 俺のスペシャルランチ」  にこやかに笑う顔は歳よりもずっと幼い。昼間はふたりきりなので、同級生みたいな距離感だ。 「優也君、料理上手だよね」  昼間の時間帯は夫は仕事で自宅にいないし、両親も仕事だ。義理の両親は会社を経営しており、夫は銀行で働いている。それなのに、この優也という男は、無職でただのうのうと生きている。よく、許されたものだ。将来の不安とかはないのだろうか?  昨晩の記憶―― 「美菜、おまえがしっかりしていないから物がなくなるんだ。専業主婦なら、きっちり掃除しろ。それに、生焼けの魚を俺に出すなんて嫌がらせか」  完璧主義の夫に怒られてばかりの日々。私は全く出来の悪い主婦だ。  罵倒されるのは日常茶飯事。インテリジェンスで学生時代は優等生だっただろう夫は、まさかこんなに激昂するような人間だと思わなかった。  外で会う時はいつもにこやかで、物腰は穏やか。だから、結婚したんだ。世間からはいい人と思われているであろう理想的な夫。  誰もほんとうのことなんて信じてくれない。  夫の本当って何? 真実の姿って何?  それなのに――なんで?  涙が流れる。辛い。  夫は風呂に入ると言っていなくなり、両親は外食してくるため、不在だ。 「涙、拭きなよ。昔から兄貴は気難しいんだよ」  優也は優しい。経済力も社会的地位もないけれど、ただ、優しい。顔だけがいいだけだと思っていたけど、性格もいい。  タオルハンカチに心が癒される。 「ねえ、ねーさんは兄貴のどこを好きになったの?」 「真面目で優しい所」  即答だ。 「たしかに兄貴は生真面目だけど、完璧主義だから家族としては面倒なタイプなんだよね。それに、優しいっていうのは表向きで昔から家族には結構冷たかったんだよね。俺は異端児だから、特に塩対応だった」 「本当に真面目で優しい人なのか、今になってわからなくなった」  涙はなかなか止まらない。 「そうだな。でも、きっと幸せになれるようにって俺は応援してるよ」 「ありがとう」 「ねーさんの、料理、俺は好きだな。不器用ながら一生懸命栄養バランスと見た目を意識して作ってるでしょ」  胸がきゅんとなる。こんな気持ちはいつぶりだろう?  屈託のない笑みに癒された。温泉に行って、ほっこりした気分、そんな感じだ。  子猫のような甘え上手な弟君。髪の毛をくしゃくしゃにして撫でまわしたくなる。こういうのを損得を問わない純愛というのだろうか?  相手の地位や学歴や職業ではなく、直感で好きだと思える事。  本能が勝手にうずくこと。  瞳が大きく、優也の髪の毛は金髪でこの家では異端児だ。顔立ちは長男と両親が似ており、優也だけ別の顔立ちだ。祖父母似なのかもしれない。 「ねーさんって、彼氏とか結構いたの?」 「いないよー」 「学生時代に2人くらい付き合った経験はあるけど、中学とか高校とかの付き合いなんて、一緒に帰るくらいだしね」 「やっぱり兄貴みたいなメガネ男子が好きなの?」 「そういうわけじゃないよ。体育会系の男子だったり、ピアノを習っていた男子だったり。メガネじゃなかったなぁ」 「好きになった人が好きな人ってこと?」 「そうだね」  見上げながら甘えながら彼の声は私に心地よく響く。  久しぶりだ。誰かとこんなに楽しいと思いながら話をしたのは。  モラハラではない扱いを受けたのはいつぶりだろう。人間として、一人の女性として扱われた。ちっぽけなことが嬉しい。  嫁としての役割とか、世間体とか度がえしした、普通の付き合い。  こんなに心地よく幸せなんだな。世の中の女性はこんな気持ちで恋人と付き合っているのだろうか。ほとんど恋愛経験のない私にはわからないことばかりだ。 「いつまで、優也君はここにいるの?」 「うーん、わかんない。気分次第」 「適当だよね」 「俺ってそういう男だから」  そういう計画性がないところもかわいい。  全部がかわいいって私の気持ちは末期状態かもしれない。  ただ、一方的に好意を寄せるくらいいいよね。  テレビに出ている俳優さんのファンになるのと同じだ。  夫がそろそろ風呂から上がる。きれいに洗濯してたたんだ下着とパジャマを身に着けて出てくるだろう。  この人がいてよかった。優也がいなかったら、私は結婚を辞めてしまっていたかもしれない。結婚の毎日は楽しいものではなく、美しいものではなかった。思い描いていた結婚生活と現実のギャップは思った以上にハードルが高い。  優也みたいな人、好きだな。  この気持ちが反則だということはわかっている。  夫は大手の銀行に勤めており、早朝から夜遅くまで勤務している。  だから、優也と二人の時間はたっぷりあった。  優一さんとは寝室は同じだが、ベッドは別だし、会話も何もない。  日常会話もないのは、どんなに寂しいことだろうか。  子供も生まれないのならば、私は孤独と闘いながらこの家の一員として生活しなければいけない。  仕事をはじめようか? 雇ってくれるところがあるのだろうか?  家事の分担なんて無理だろう。自分の首を絞めることになるんじゃないだろうか?  今でも怒鳴られているのに、これ以上怒鳴られたら精神が持たないかもしれない。 ♢   「ねーさん、一緒に買い物に行かない?」 「どこに?」 「食料品足りなくなってきたでしょ。ついでに美味しいランチでもして帰らない?」  気楽な男だ。 「私、気になっていた新しいパスタのお店があってさ」 「いいねぇ。俺、バイトしながら旅をしていたから、貯金はあるんだ。おごるよ」 「悪いよ」 「食材は俺が料理するために元々ほしいものを買いに行く人手が欲しかったんだから、お礼だよ」 「……ありがと」  かっこいい。この人、全然夫に似ていない。まるでアイドルと歩いているみたい。世間から見たら、私達はどんな関係にみえる?  親戚の義理の弟とただ、買い物に行くこと自体、おかしなことじゃないよね。家族なんだもん。 「兄さん、姉さんに優しくしてる? 普段厳しいから、二人だけの時はめちゃくちゃ優しいとかさ」  屈託のない笑顔だ。 「それはないな。二人きりでも、いつもイライラしていて、距離があるよ」 「じゃあ、デートしたこともないってこと?」 「結婚してからはデートも手つなぎもしてないよ」 「もしかして、子作りも考えてないとか?」 「そうなるね」 「子供いらないの?」 「私は欲しいけれど、優一さんがいらないみたいで。忙しいからそんな暇ないとかさ」 「めっちゃもったいないよな。こんなかわいいお嫁さんいたら、俺なら毎晩ラブラブなのに」  冗談だよね? 赤面する。にこやかな瞳に汚れや嘘はないようだ。 「私も優也君みたいな人と結婚したかったなぁ」 「またまたぁ。じゃあ、今日はデートみたいな感じで楽しもうか?」  にこりとされるとハートが撃ち抜かれる。きっと女たらしだ。 「俺もしばらく彼女なんていなかったから、めっちゃうれしー」  少年のようなあどけない優也はかわいい。  素直に正直にかわいい。  手が触れる。ドキリとする。手はつながないけれど、触れたまま歩く。  お目当てのお店に到着。  もちもちパスタが有名らしくお昼時は賑わいがすごい。  優也の服装はおしゃれで、小綺麗な服を着ている。  夫の優一さんのセンスとは全然違う。とりあえず着れればいいといわんばかりのトレーナーやカーディガンが何着かあった記憶だ。 「この時期限定のレモンパスタだって」 「うにのパスタも俺、好きなんだよな。ドリンクバーとサラダのセットもお得じゃね? スイーツもついてくるみたいだし」 「セットのケーキが意外とおいしそうだね」  私たちは素直に見入る。  美しさを重視したパスタの色合いが食欲をそそる。  異性とランチしたのはいつぶりだろう?  夫が見たら変に思うかな? でも、買い物に来たついでだし。 「買い物してから、自宅に帰っても誰もいないじゃん。映画でも見ない?」 「どんな映画?」 「去年めちゃくちゃヒットした奴が配信するらしいんだよね。映画見に行っていないから、俺はめっちゃ楽しみでさ」 「ホラー系?」 「恋愛要素もあるホラー系」 「マジでドキドキじゃん」 「そうだな。一緒に見る?」 「うん」  私たちはこの短い期間で、家族としてというか、いつのまにか仲良くなった。家族以上なのかな? これって好きっていう気持ちは何に分類されるの? 親族だよ。血がつながっていないだけ。  自宅に帰ると誰もいないリビングはしんとしていた。  一緒に鑑賞する。音響も映像も怖いと思い、つい、彼のTシャツをつかむ。 「大丈夫」  手を握ってくれた。これって、手つなぎ? 恋人みたい。  体を委ねる。すると、肩越しにきゅっとされた。体が密着する。  これって恋人みたいだよね。見つかったらまずいよね。  でも、これは何もしていない。キスもしていない。体を重ねてもいない。浮気じゃないよ。不倫じゃないよ。  おでことおでこを重ねる。 「ねーさんのことずっと気になっていた。初めて見た時から、こんな人が俺の彼女だったらいいなって。かわいいなって。兄貴が羨ましかった。だから、帰宅したんだ。今までは滅多に帰宅しなかった。兄貴はねーさんに優しくするとは思えなかったし」  反則業だ。こんなに優しく甘い言葉を投げかけるなんて。 「俺たち付き合っちゃう? もちろん秘密でさ。プラトニックな純愛な付き合いでいいからさ。秘密ってワードはワクワクだよね」  嬉しい。夢だろうか。最初に優也に出会っていたらうまくいっていたのに。出会う順番が間違えていただけだ。  本当の運命の人は優也だったんだ。身を委ねる。頬ずりして、キスを交わす。彼は体をさすってくれたけれど、一線を超える行為はしなかった。キスが一線を超えるというのとは違うのかどうかは判断が割れるかもしれないが。 「優也君、また旅に出ちゃうの?」  膝枕をしながら話をする。甘え上手な弟はとってもかわいい。 「実は、俺、モデルなんだよ」 「嘘? 知らなかった」 「元々は大手のプロダクションのアイドルやってたんだけど、モデルに転身して、俳優業を本格的にやる予定」 「私、芸能人に疎いから、気づかなかった」  驚きすぎる。私の膝の上にいる人が、芸能人?  スマホを渡される。  事務所のホームページには優也の写真とプロフが載っており、ファンクラブも存在している。 「お金はさ、アイドル時代にかなり稼いだから貯金してるんだ。そのお金で世界を旅した。親も自分で稼いだお金に文句はつけられないだろ。それに、浮ついたことが嫌いな兄貴と両親は俺が芸能人だということを伏せているんだ」 「だから、私には何も言わなかったのね」 「ファンに家を知られるのも面倒だしね」 「この家に滞在しているのは、ねーさんがいるからなんだよ」  耳元でささやかれる甘いボイスが心をくすぐる。これはきっと、イケボと呼ばれるものだろう。まるでお姫様だ。  私の方から頬にキスをする。負けじと優也はたくさんのキスを返してくれる。甘い時間。甘すぎる!!   こんなにイチャイチャラブラブしているのは生まれて初めて。  顔立ちの整った彼が私の瞳を見つめてくれる。自然と体が火照る。  贅沢な時間に体は自然と反応する。  ドキドキしている音は聞こえているかもしれない。  でも、彼からもドキドキしている音が聞こえるような気がする。  こんなに近くにいたら、きっと聞こえる。 「大丈夫、俺に身を任せて」 「……はい」  夫と何もない女としての部分が顕著になってしまった瞬間だった。  私たちはいつのまにか何度も体を重ねていた。  それは、本能だったのかもしれないし、それ以外考えられないくらい好きになっていた。  いつのまにか下の名前で呼ばれるようになっていた。  でも、一番うれしいのは、会話があること。  人間として、女性として扱ってもらえている事だ。  夜になると家族が帰宅し、厳格な重い空気が走る。  なんで、この家の人はこんなに誰かを警戒しているのだろう。  誰かというのはわからないけれど、世間なのかもしれないし、身内なのかもしれない。  優しい穏やかな空気は無縁だった。  優也はしばらくすると、芸能事務所の仕事に復帰した。  俳優として、仕事が入っており、順調だった。  いつ仕事がなくなってもいいように、彼は芸能人の割には比較的安価なマンションに住んでいた。  でも、一般人とは違うので、セキュリティーなどしっかりしている芸能人が多数住んでいるというマンションだった。  優也は重たい実家を出て、マンションを借りた。  私はそこへお忍びで通う日々が続いた。  どこかへデートすることがなくても、ただ彼と一緒に今日も風呂に入る。  一緒にベッドに寝る。趣味のない私の唯一の趣味だった。  一応家出はしていない。  もし、家出をすると、この関係がかえって壊されてしまうのではないかという不安が襲う。    戸籍上の夫婦である夫とは何もない。  戸籍上の義理の弟である優也とは愛がある。  入籍って何だろう。愛って何だろう。   「優也は美しい女優とつきあったりするんでしょ」 「美菜はやきもち妬きだなぁ。俺は、美菜の全てが好きなんだよ。だから、どんなに人気女優と共演しても好きになんてならないよ」 「美菜のどこが好きなの?」  自分のことを美菜呼びをするくらい、自分に甘々になっているのが自分でもおかしくもある。 「全部。声も仕草も全部好き。美菜ってすごくいいんだよね」  最初は逃げ場所として彼を利用していたのかもしれない。  でも、結局は彼も私も本気になっていた。 「美菜がかわいそうになってさ。一生懸命しているのに、親も兄貴も辛い言い方をするからさ。最初は同情からはじまったのは事実だよ。でも、すごく心根が優しくて、芸能人にはいない普通の女性だった。だから、本気になった。たとえ、世界中を敵に回しても俺は美菜を守り抜く。だから、離婚手続きを進めてほしい」  真剣なまなざしと、婚約指輪。  私、愛されているんだ。  離婚については調べた。  協議離婚というものは双方の合意が必要。一般的に離婚届に判を押す離婚スタイルだ。  家庭裁判所経由での離婚は、調停離婚。これは、調停員を交えて、双方が話し合う。それでも、まとまらなければ、裁判離婚。  これは、弁護士を通して離婚の条件を提示する。  または、3年から5年の別居は離婚に有利らしい。でも、不貞行為は不利になる。  意思疎通の出来ない精神疾患や家出で行方不明なども年数次第で双方の合意はいらないらしい。  ちょっとした精神疾患はだめなので、ほとんどあてはまる人がいないという法律らしい。  形だけの夫婦なんておかしい。  もし、DVを受けていたといえば、有利になるのだろうか。  DVの定義は様々だ。警察では「殺すぞ「死ね」と言うのは言葉のDV。身体意外だとこれしかあてはまらない。  女性センターでのDVは経済的、言葉、性的色々な側面からDVが定義づけられる。  裁判だとどこまでがDV扱いなのだろうか。  言葉での暴言というのはどこまでがDVなのかも不明だ。 「バカヤロー」ではなく、「遅い、ちゃんとしろ」とか嫌味や悪口はDVではないのだろうか。  警察も細かくDVを設定していたら、全部DVになるから定義が厳しいらしいと聞いた。  強い口調だとDVかどうかというのも難しい。  結婚は慎重にしなければいけない。簡単に解けない紐のようだ。  ネットや書物、弁護士相談会や離婚セミナーで知識は得た。  夫に切り出そう。  事前に取り寄せていた、離婚届をなぜか夫が持っている。  なぜ? 私のサインも書いてあるものだ。 「こんな紙切れ、破いてしまえばあっという間に紙ごみだよ」  夫の眼鏡の奥の瞳が怖い。 「俺、離婚はしないよ。気味を永遠に束縛することで、弟に復讐するんだ」 「どういう意味?」 「君は弟が好きそうな雰囲気の女性だったから結婚したんだよ。俺は弟にルックスも、ファッションセンスも、年収も、学歴も負けたんだ。だから、結婚相手だけは弟には負けたくなかった」  言葉が出ない。そもそも、結婚した理由は弟に勝つため? 「君たちが仲がいいのは知っていたよ。でも、俺は君に愛がないから嫉妬心はない。でも、婚姻関係は双方の合意がなければ、離婚は無理なんだよ。紙きれ一枚に人生は振り回されるのさ。どんなに愛し合っても、俺以外の誰かと君は結婚はできないんだよ」  全てをお見通しだという夫の瞳は冷たく、目は笑っていなかった。  私は手のひらの上のお花畑で遊んでいただけだった? 「不貞を働いたとしても、俺は心が痛まない。弟の心が壊れる瞬間が見たいだけなんだ」  一見育ちのいい優一さんは、一番凶悪で一番劣等感の強い束縛と怨念の塊だということに気づく。  それでも、見て見ぬふりをする両親と夫。世間体とかを気にする人が得意な技だ。私たちはそれでも逢瀬を重ねる。  たとえ、夫婦になれなくても、ファンや世間から認められなくても、好きな人とは一緒にいたいから――。  今のところファンには見つかっていない。でも、ある程度の地位を築ければ、実力があれば交際していても問題ないだろう。  ただ、不倫となるとマイナスイメージがつきまとう。  でも、不倫じゃなく、離婚できずに結婚ができないと説明することは難しい。だから、今は何も動けないでいる。全ては彼のためだ。  裁判という法律で立ち向かうべきなのだろうか。家出という曖昧なことをしてもなかったことにされてしまうだろう。  彼はずっと異端児として生まれてきた家のことが重荷だったのかもしれない。  心が壊れそうになる時も、体がしんどい時も私たちはずっと一緒だ。  病めるときも健やかなるときも――永遠の愛を誓いますか? (二人一緒にせーので)  ――誓います。  
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