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リョータに支えられて弘一は店の出口がある通路へと向かった。リョータに飲まされた薬のせいなのかアルコールのせいなのか、はたまたヒートのせいなのか?意識が混濁し始め、足元がおぼつか無い弘一をリョータは楽しそうに支えてやった。
彼にとって弘一のようなオメガはただの獲物に過ぎないのだろう。献身的な友人の振りをしているリョータの横顔を睨みながら弘一は今夜、自分が彼にレイプされる覚悟をしたのだった。
店の入り口は地上にあったけれど、店自体は地下に在るそこは階段を降りて通路を通った先の部屋に店がある造りとなっている。
弘一はすれ違う客の中にちらりと自分に目をやる男が幾人か居たことに気付いた。思った以上にリョータの薬は効きが速いようだ。
「あ、小川さん!」
せっせと引きずるように歩いていたリョータが足を止めたかと思うと弘一は向かいに止まった二人の体に目をやった。さっきから激しい頭痛も起こっており頭を上げることすら辛くて顔を確認することは出来なかった。
「お前は相変わらずだなぁ。まぁた、相手が違う」
笑って誤魔化すリョータの様子と相手の声の雰囲気から察するに無視することは出来ない年上の知り合いのようだ。
その二人組はどちらもスーツを着ていた。けれど同じスーツとは思えないほどにその質がまったく違うのが見て分かった。
小川のスーツは弘一も着るような一般的なモノとするのなら隣に立つ男のスーツは明らかに高級品のそれだ。生地の光沢や裾の誂えなど素人でも見比べればその違いを感じられるほどに上等なものだった。
そしてそんな高級スーツを身にまとった男の手は見惚れるほどに白く綺麗だった。
長く形の良い指が伸びるその手の甲は毛穴など分からないほどに肌理が細かく白く発光しているように見えるほどだった。
女性的な美しさを持っているのに華奢さは感じられず、むしろ、この人なら自分を助けてくれるかも?なんて淡い期待が過った。
見惚れていた手が徐々に自分の顔へと近づいて来るのに気付き弘一は首をもたげようとした。
「彼は飲み過ぎたのかい?」
リョータに聞きながら小川の連れが弘一に触れようとしたのに気付きリョータは弘一の肩を引き寄せてその手から距離を取らせた。
「―けて」
か細い弘一の声はリョータには聞こえており慌てて声を張り上げた。
「何?吐きそうなのか?ここじゃマズイ。トイレまで我慢しろよ~!じゃぁ、小川さん!」
出口とは反対側のトイレへと弘一を引きずって行くリョータに小川は「じゃぁな」と答えたのだった。
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