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オレンジ色のライトに照らされたウィスキーグラスはまだ半分も減っていない。
グラスの縁に掛ける指先は微かに震えていて彼は体調が思わしくない自分に溜息を付いた。
「体調が悪いのなら控えた方が良いですよ?」
彼の様子を見兼ねてバーテンダーが声を掛けた。
「あ、いや。ちょっと、人混みに慣れてなくて…」
「東京には仕事で来られたんですか?」
「そうです。本社での大事なプレゼンを任されてるんですけど、緊張からか眠れなくて」
苦笑する彼にバーテンダーは頷いた。
「睡眠不足は一番良くありませんからね」
「お酒は弱い方なんで、これ飲んだらきっと眠れると思うんです」
「そういう事なら」
納得するとバーテンダーは注文を持って来たスタッフの方へと行ってしまった。
何とか会話をやり過ごした彼はまた溜息を付いた。バーテンダーの予想通り、彼の体調はあまり良いとは言えなかったからだ。
けれどそれは風邪とかの病気の類ではなくもっと特殊なものであまり軽々しく口に出来ることでもなかった。
「ねぇ、あんた、名前は?」
唐突に空いていた隣の席に両肘を抱えて乗り込んで来た客が彼に声を掛けた。
あまりのことに言葉すらも失っている彼にもう一度男が名前を聞く。「俺はリョータ」と付け加えて。
「こう、いち…です」
見るからに軽薄そうな姿と口調のリョータに彼=弘一(こういち)は勢いに負けて名乗ってしまった。
「ねぇ、コーイチ。あんたー」
許可も無く呼び捨てにされたかと思うと肩を抱き寄せられて耳元で囁かれた。
「オメガだろう?」
初対面の人間相手に信じられない行動と共にリョータの口から出た言葉に弘一は息を吹き掛けられた耳を抑えて驚きに目を見開くことしか出来なかった。
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