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どうしてバレた?薬は飲んでるのに。都会だと見た目だけでバレるのか?俺ってどんな風に見えてるんだ?  頭の中がパニックになっていた弘一は無意識にシャツの胸元を隠すように手で掴んだ。今ここで自分がオメガとバレた時に起こり得ることを無意識に想像したからだ。  その仕草にリョータは鋭く状況を察した。  「大丈夫だよ。俺以外気付いてる奴はいない。まだ、な」  小声で言いながら周囲に目配せするリョータに弘一は彼の真意を察した。言うことを聞かなければ周囲にバラすと言う脅しなのを。  「どうして…?」  弘一には聞かずにはいられなかった。いつも飲んでいるフェロモン抑制剤はきちんと効いているはずだったから。  「俺さ、普通のアルファよりもめちゃくちゃ鼻が利くんだよね~。ヒートを起こしてる奴なら抑制剤飲んでても大体分かっちゃう」  「そんなー」  再び弘一の肩を抱き込んだリョータは彼のグラスを引き寄せると声を潜めて尋ねた。  「じゃぁ、俺からも質問。どうしてヒートなのにこんな所で飲んでるの?それってどういうことを意味するのか分かってるよね?」  「違―っ。ひ、人と待ち合わせをしてて」  「待ち合わせ?だったらすっごい遅刻じゃない?オメガをこんな場所で一人で待たせておくなんて狼の群れに羊を待たせてるようなものでしょ?ひどい相手だね」  とっさの嘘もすぐに見破られて弘一は焦った。実際にリョータの言う通りなのだから。  ヒートを起こしているオメガがこんな場所に一人でいることが危険なことくらい分かっていた。だからこそ、目立たないようにして一杯だけだ、と意を決して入って来たのだ。薬が効いているから誰にもバレることはない、と想定して。  「お願いします。手を離してください。帰るんで」  「帰っちゃうの?残念だなぁ。せめてこの一杯くらい飲んで行きなよ。飲みたかったんだろ?」  目の前に戻されるウィスキーグラスに弘一はこれを飲み切らないと解放してはくれないのだろう、と察し一気に飲み干した。  一気にアルコールが体内を巡る感覚に頭が揺れる。肩を掴むリョータの手を指を引っ張って離させるとカウンターチェアからフロアへと降りた。その瞬間、膝から力が抜けるような感覚に陥り、弘一はリョータに脇を掴まれて支えられてしまった。  「飲み過ぎだよ。コーイチ」  周囲に怪しまれないよう大袈裟に声を掛けるリョータに弘一はさっきのウィスキーに薬を盛られたことを悟った。  こんな古典的な方法に簡単に騙される自分に呆れ、体に力の入らない状況に焦った。  弘一の腕を肩に担いだリョータは小さな声で話しかけた。  「その薬、フェロモン抑制剤の抑制剤なんだよね~」  リョータの言葉に弘一は一気に全身の血が引いた気がした。抑制剤を抑制する薬、すなわちこの場所で自分がヒートを起こすと言う事態に言葉すらも出なかった。  「この店にいる他のアルファ達にバレる前に一緒に出よう」
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