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「ついに、この時がきました! 星々を遊覧できる、民間人の宇宙旅行の解禁です!」
鼻息の荒いリポーターが、マイクを壊れそうな程強く持ちながら、カメラをギラギラとした瞳で見つめていた。恐らく、テレビの向こうの視聴者は、若干、引いていることだろう。
俺は窓に近づき、見上げる。そこにそびえたっているのは、宇宙エレベーターだった。
これから俺と彼女はこの宇宙エレベーターに乗り込み、その後、そこにあるステーションからある星へと遊覧飛行へと旅立つ。さすがに星々への着陸は難しいらしい。
「ようやく、だね」
隣に立つ彼女が窓に触れた。
「ようやく、だな」
彼女は僕の肩に自分の頭を乗せる。
「色々、思い出しちゃうね」
「ああ、この日のために頑張ってきたからな」
俺たちは、この日のために必死になって働いた。星々への宇宙旅行が民間人に解禁されたからといって、電車に乗るように簡単に乗れるわけではない。莫大な費用を準備しなければならない。
俺が裕福な家庭の出自であれば、こんな苦労をする必要はなかったのかもしれないが、残念ながら、そうではなかった。
星々の遊覧ができる宇宙旅行が民間人にも解禁される。
そんなニュースが流れたのは五年程前のことだった。当時から彼女と共に暮らしていた俺は、彼女にこの話をすぐに持ち掛けた。彼女は始めこそ難色を示したものの、やはり、最後には承諾した。
そこから、俺たちはとにかく金を求めた。
昼も夜も働き詰めに詰めに詰めに詰めまくった。少しの隙間時間があれば、すぐに金になる仕事を入れ続けた。
身体的にはボロボロだった。ただただ精神力で持たせた数年間だった。
でも、俺たちはやり遂げ、ここにたどり着いた。
彼女の姿が窓に映る。その瞳からは一条の涙が零れていた。
「ごめん。泣かないって決めてたけど、思い出すと、やっぱり零れてきちゃう」
俺は彼女の手を強く握った。
そうしていなければ、俺も泣いてしまいそうだったから。
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