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暗黙の了解で、この広場でダンスの練習をするのは1グループにつき50分間。次のチームが順番待ちをしているので、持ち時間終了後は速やかに交代する。
「桜野くんの家も北丘ニュータウンなの!? 俺とイチヤと同じじゃん。一緒に帰ろー!」
撮った動画をチェックしていた僕の後ろから、ミヤくんがのしかかってきた。
「さっきのお詫びと運命の再会を祝して、お茶でもどう? ね、イチヤ!」
ミヤくんの横からイチヤくんがどこかのドリンクバーの無料券を僕に差し出してくる。
「い、いいの!?」
僕にとって友達と一緒に帰るのも寄り道に誘われるのも初めて。2人と僕は電車なので、自転車で帰る青井くんとは広場を出たところで別れようとした。
「桜野は今日は塾があるって言ってたじゃん」
青井くんに僕はうなずく。確かに僕は週2回塾に通っていて、この後行くつもりだった。
「個人指導だから休んでも振替がきくんだ。せっかくだし今日はそうしようかなって……」
「なら、これから俺んち来いよ。元学年トップなら勉強教えて。代わりに動画の編集方法教えてやるよ」
青井くんからも誘われるなんて思わぬ事態。先に誘ってくれたミヤくんとイチヤくんを見た僕に2人はにこやかにうなずいた。
「じゃ俺たちも桜野くんに教えてもらおっ。アオちゃんち久しぶりだし」
「そうだね。その後一緒に帰ればいい」
そういうことかと思ったのも束の間。
「お前らはダメ」
青井くんは僕だけに手を伸ばした。
「どーする、桜野は俺と来る? それとも2人と帰っちゃう?」
怒って騒ぐミヤくんと、腕を組んで黙ってるイチヤくん。2人が見守る中、僕はこわごわ青井くんの手をとった。
「──こっち。ちょっと歩くから、荷物持ってやるよ」
二人と別れてすぐに、自転車を押して歩く青井くんに僕のカバンを奪われた。僕は手持ち無沙汰で青井くんのちょっと後ろを歩いている。
手は繋いだまま。見えないけど、きっと僕の手の平は青くなっているだろう。
「帰りは暗くなってるだろうから駅まで送る」
「そんな、大丈夫。女子じゃないし一人で帰れるよ!」
遠慮したつもりが、振り向いた青井くんは不満気な顔。
「そーゆーの嫌い? 絶対ダメなの?」
首を傾げて聞いてくる。
「う、ううん。そんなことない……」
そりゃ僕としては嬉しいに決まってる。青井くんとなら、たとえ駅が富士の頂上にあっても楽々行けちゃいそう。ただ青井くんに面倒をかけたくない。
「あとさ、明日の朝から桜野が来るの駅で待ってるから一緒に登校しようぜ。それで帰りは駅まで送る」
「へ!? 毎日一緒に登下校!? そんな、いいの!?」
「いいよ」
「ぎゃっ!?」
豪華すぎるファンサに興奮して、僕は目の前の段差に気づかなかった。盛大に転んで惨めにも道に這いつくば──る代わりに、青井くんの手から離れた自転車が音を立てて倒れた。
青井くんの腕に抱き寄せられた僕。くっついた胸から体温が伝わってくる。夕日のせいかな。青井くん、僕と同じくらい顔が赤い。
「あのさ、アイドルごっこはもうやめて、ちょっとは俺と付き合うとか、そーゆーの考えてみてよ」
こんなに近くから見ても、青井くんやっぱり顔が良い。はい。青井くんがそう言うなら今すぐ付き合います。……あれっ、付き合う……?
「はは、はいぃぃっ!? 僕と!? なんで!?」
「桜野って、ピンクの花が飛んで見えるってゆーか。なんか可愛くて、ほっとけねーの」
ピンク……? 確かに僕の顔は今も真っ赤。でも、ただのゆでダコで可愛いはずはない。
「行くぞ」
青井くんは倒れていた自転車を持ち上げて僕のカバンも拾ってさっさと先に進んでいく。
「まっ待って……」
振り向いてくれないので、走って追いかけた。隣に並ぶと再び手を取られて、まるで連行されるみたいに家に連れていかれる。
だ、大丈夫かな僕。帰る頃には全身青く染められていたりして。
end
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