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「またここ。ねえどうして? 最近は真面目に授業出ていたじゃない。わたしの話を理解してくれたんじゃなかったの?」
水槽の中のメダカは二匹に減っていて、その二匹は互いを牽制するように距離を取って泳いでいる。私はそれを見つめたまま「理解はしてるよ」とだけ返した。
「だったらどうして? こんな場所にいても何もならないよ?」
「サエキさん。ううん、ねえヨウコ」
突然呼び捨てにしたことに「え」と驚きの声を彼女は漏らしたけれど構わずに私は続ける。
「ヨウコはどうして私に構うの? それはあなたの夢にも学生の本分である勉強にも何も関係ないことでしょ? それなのに毎回ヨウコはこうして私を探しに来てくれる。委員長だから、というのはなし。それなら私以外にももっと面倒見なきゃいけない人たくさんいるもの」
「それでも委員長よ。でもね、これはそんな義務感からじゃないの全然。笑わないでよね」
そう前置きすると彼女は私の隣にやってきて腰を下ろす。何? とその顔を覗き込むと「実はね」とその理由を話してくれた。
「今でこそ委員長で真面目なサエキさんて認識されているけれど、小さい頃は全然そんなじゃなかったのよ。前に少し話したよね、やんちゃだったって」
研究者になりたいという夢を語ってくれた時のことだ。
「みんなが同じ教室に閉じ込められて同じ勉強をさせられるのがどうしても分からなくて、それが嫌でよく授業を抜け出してたの。わたしの隠れ家は図書室だったけれど、そこで好きな本を読んで時間を過ごしてた。でもね、ある日一人の生徒がわたしを探しに来てくれたんだ。わたしもその子にイチミヤさんと同じような質問をしたわ。何故って。そしたらその子は『ともだちだから』だって。すごくシンプルで否定できないとても強力な理由だった」
ともだち、そう口の中で唱えてから頷く。
「たぶんそれが別の理由でもほんとは嬉しかっただろうけど、ほとんど話したことのなかったわたしを友だちって言ってくれる誰かのために何かしたいって思ったのね。だからそれがわたしの夢のきっかけになった。研究者になることはその手段であって、今目の前で困っている友だちを放っておいてまで手に入れるものじゃないのよ」
「私は……友だち?」
「そう。わたしたちは、友だちよ」
真っ直ぐに答えた彼女は微笑んだのだろうか。フルフェイスの向こう側の表情が見たくなって右手を伸ばしたところで、一気に暗闇に落とされた。
「停電ね」
ヨウコは落ち着いた声で言った。
「すぐに復旧すると思うけど」
けれど私に体を寄せ、右腕を掴んでくる。その手から僅かな震えが伝わり、私は大丈夫と安心させるために彼女を抱き寄せた。
「これでもだいぶ慣れたんだけどね、でもやっぱり気持ちの準備ができていない時に急にやってくる暗闇は無理みたい。ごめんなさいね。しばらくこのままいさせて」
いいよ、とも、うん、とも言えないまま黙って彼女を抱く。それでも白銀の薄皮一枚によって隔てられたその感触は何だか人形を脇に抱いているようにも感じられてしまった。
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