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花泥棒
石原の胸ぐらを掴み、壁に押し付ける桃琉の剣幕と、脛をガシガシ蹴り上げる園実の激昂ぶりを、衣千花は呆然と見ていた。
「イッチーを誘おうなんざ思い上がりも甚だしいんだよ!」
「この糞男、イッチーはお前の誘いに乗るような軽い女じゃないんだよ!」
「あの、二人とも、その、そのぐらいにしとけばどうかな、何をされた訳でもなかったし」
衣千花はおずおずと声を掛ける。
「そ、そうだ、俺は園実の相談に乗って貰うために衣千花ちゃんを呼び出しただけで·····」
「肩に手を回して引き寄せてただろうが」
「あれは衣千花ちゃんが、誘って·····きたから·····」
石原は、ちらりと衣千花を見た。
衣千花は憮然として首を振る。
「イッチーが男を誘うような真似をするか!そんな器用じゃねぇんだよ」
桃琉が石原に顔を近付けて、メンチをきった。
失礼な。
でも、その通りです。
園実は石原のポケットを探り、小袋を取り出した。
「ねえ、何でこんなものが入ってるわけ?いつも入れてる訳じゃないわよねぇ」
桃流は園実の手の中にあるそれを見て、石原に殴り掛かった。
園実がその手を掴み、必死で引き剥がしたあと、肘をグッと引いて石原の腹に拳を打ち込んだ。
「泡良くば、と思ってたんでしょ、彼女の友達に手を出そうなんて最低だわ、あんた。二度と顔見たくない」
石原は呻きながら膝を付いた。
姿を現した時にパリっと着込んでいた細身のスーツがヨレヨレだ。
「イッチー行くよ!」
園実が衣千花の腕を取る。
反対側の腕は桃琉が掴んだ。
「お前は本当に男の見る目がないな!イッチーに色目を使うような奴なんて最低だぞ」
「お兄ちゃんみたいなヘタレよりマシだ」
「ヘタレじゃない、慎重なだけだ」
「きっもち悪い、お兄ちゃんだけは絶対嫌だ!」
「お前がそーゆー事を言うからだろう、だから、俺はずっとだなあ、」
私を挟んで喧嘩は止めて欲しい。
「あの、二人で良く話し合ったらどう?私は遠慮するから」
衣千花は二人を交互に見た。
園実は口を尖らせる。
「お兄ちゃんと話すことなんかないよ」
「俺も園実とは無い」
二人揃って反対側を向いてしまった。
これでは衣千花の覚悟も台無しである。
「あのさあ、素直になりなよ。私もいつまでも二人と一緒に居られる訳でも無いんだからさ、このままにして置くのは心配なんだよ」
園実と桃琉は揃って衣千花を見た。
「なによう、イッチー、何処いくの、最近変わったと思ってたけど、私達にもう会わないつもり?遠くで就職すんの?」
「イッチー、そうなの?!」
「いや、そうじゃないけども」
何で二人の意識が私から離れないんだろう。
「園実、手を離せ」
桃琉が園実を睨んだ。
園実も桃琉を睨み返している。
「お兄ちゃんは、衣千花が一番嫌うタイプの男だって言ってるじゃん」
「うるせえ、一目惚れの何処がいけないんだよ」
衣千花は首を傾げた。
一目惚れって誰が誰に·····
「このまま、何も言わせてくれないつもりかよ、イッチーがどっかいっちまうってのに、このまま、見送れって·····そんなの無理!」
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