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「きゃー! ルーカス様、今日も最高……! はぁ、スチルも素敵……」
一転してここはムードもなにもない、LEDの真っ白な電気が灯る部屋。冬ということもありもう何日も洗濯していないスウェット姿のまま、玻名城 由夢(はなしろ ゆめ)は、スマートフォンの画面をうっとりと撫でた。
そこにはちょうど今、由夢がプレイしていた乙女ゲーム内のイラストが映し出されている。定番の金髪碧眼の男性は、乙女ゲーム『ロイヤルハグ~愛の迷宮で囚われて~』通称ロイハグに登場するルーカスというキャラクターで、アプリリリース時から由夢の一押しだ。
「ルーカス様の唇、柔らかそうだな……。キスってどんな感じなんだろう……」
――よく聞くレモンよりは大好きなイチゴ味がいい……なんて、さすがにそんなわけないか。だけど、甘くてさぞ良い香りがするにちがいない。
唇を合わせた瞬間から、胸いっぱいに多幸感が広がって、それで――
「気持ち良いのかな〜」
由夢は二十四歳にもなって、キスの経験すらない。見た目こそ悪くはないので、初対面の男性にはそこそこ言い寄られることがあるが、恋愛経験が乏しいが故に、アピールされていることにすら気付かない鈍感ぶりだ。そのおかげでこの年まで、男性と付き合ったことすらなかった。
そして、由夢が恋愛できない一番の理由は、恋愛対象が二次元に向けられているから。現実離れしたイケメンとの疑似恋愛をしすぎたせいで、理想が高くなってしまった。傍から見ればただのオタクで痛――残念な女だ。
「きっとルーカス様はキスも上手だよね」
勝手な妄想を繰り広げる由夢は、完全に自分の世界に陶酔している。だから気付かなかった。自分の部屋に忍び込む影があることを。
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