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「まーたルーカス様かよ」
「ふえっ……!」
フルーティーさの中に、微かにホワイトムスクを混ぜた清涼感のある香りが鼻先を掠める。もう何度も嗅いだことのある匂いに、由夢は驚きのあまり飛び跳ね、愛用のイヤホンを外した。
「ちょ、また勝手に入って……! チャイムくらい鳴らしてよ!」
「鍵持ってんのに? そもそも由夢が大音量でゲームしてんのが悪いんだろ」
反省する様子もなく、由夢の部屋の合鍵につけたチャームをくるくると指先で回す男――美浜星七(みはま せな)は、由夢と同い年の幼馴染。
くっきりとした二重に、程よく高い鼻。口元はやや口角が上がっていて、甘いマスクが特徴的だ。グレーアッシュの髪はぱっと見は落ち着いているけれど、透明感がありキラキラと反射している。
「ていうか、私の部屋来すぎ。鍵、乱用するなら返してよ」
「監視監視。おばさんにも頼まれてるし」
「毎日行けなんて言われてないよね……!?」
埼玉にある二人の実家は徒歩一分ほどの近さで、母親同士が仲が良かったこともあり、物心ついたときからずっと一緒だった。
幼稚園から高校生までを同じコミュニティで過ごし、大学こそ離れてしまったものの、今もこうして勝手に家に入ってくるほどの仲。
ちなみになぜ星七が由夢の部屋の鍵を持っているかというと、昨年由夢が念願の一人暮らしを始める際、心配した両親が「星七くんの家の近くにしたら?」なんて言い出したのをきっかけに、どうせなら同じマンションはどうかと勝手に話が進んだのだ。
由夢は迷ったが、両親が引越し費用を出してくれるという条件に目が眩んだ。そのせいで今更になり、完全に早まってしまったと後悔する羽目になった。
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