試練

1/1
前へ
/1ページ
次へ
 高鳴る鼓動が胸を打つ。  衝動に身を任せてしまいたいけれど、君との約束を破るわけにはいかない。  僕は必ず待つと決めたんだ。  どんなに甘い誘惑も、君への想いには敵わない。  信じてくれる君のためなら、僕は過酷な試練にだって耐えてみせる。  だから、この試練を乗り越えられたら、その時は、よくやったと褒めてほしい。  僕の望みは、それだけだから。 「よし!」  彼女の合図で緊張から解き放たれた彼は、待ち望んだご褒美にありついた。  至極嬉しそうな様子の彼の頭を、彼女は優しく撫でる。 「やっと〝待て〟できるようになったねー。えらいぞー、ジョン!」 「ワンッ!」  専用の皿に盛られたディナーに舌鼓を打ちながら、愛する飼い主から与えられる賛辞というもうひとつのご褒美に、彼は千切れんばかりに尻尾を振るのだった。
/1ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加