「キスできないって言ったじゃん」

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 今日は前撮りの日。  どうやら私達は予行練習もしない──いや、できないまま、結婚式を迎えてしまうことになりそうである。  ガチガチに固まっている彼。見ているこっちが不安になってくる。 「ほら、しっかりしてよ。新郎さん!」  バシッと背中を叩いて喝を入れてみるも、彼は狼狽しながら頷くだけだった。 「こちとらあんたのせいで結婚式がファーストキスなんだからね!」と大声で叫びたい。けれどそんなことできるはずもなく、深いため息をつきながら私は撮影場所へ向かった。  そこには誰もが口を揃えて言うだろうイケメンが待機していた。 「ほんと顔“だけ”はイケメンなのに」 「“だけ”はってなんだよ。“だけ”はって」  カメラマンさんが微笑ましそうにカメラのシャッターをきる。その音を聞いて、私達はすぐに事前に予行練習してきたポーズをとり始めた。  シャッター音が聞こえるたび、「ああ、この人とこの先も生きていくんだな」という思いと「ああ……式は大丈夫なんだろうか」という不安が募っていった。  前撮りが終わった帰り、私はスタッフさんにあるお願いをした。
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