白い点の存在

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 私は朝倉宏美(あさくらひろみ)。三十五才のOL。小さな会社で十三年、仕事を続けている。私は良くも悪くも空気のような存在。 仕事で怒られることはないけど、褒められることもない。誰からも嫌われないけど、誰からも好かれない。ただ毎日ひっそりと仕事をしている。 会社が終わって家に帰っても、一人暮らしなので誰もいない。一人は気楽だけど寂しい。趣味もないので休日もただ、ぼーっと過ごす。  そんな私、なんで生きているのだろうって思う。私が死んでも誰も悲しまないんじゃないかな。私は何のために息をしているのだろう。  心の中がどす黒い色で染まっていた。暗く閉ざされた歪んだ心。どこにも救いがなかった。私は日陰者。  そんなことを考えながらベッドに入ると眠れなかった。明日、会社に行って帰ったら、もうこの人生いいかなって思った。  徹夜で出勤した。今日も私は空気になる、そう思っていた。しかし朝礼の時にいつもと違うことがあった。  新入社員の入社式だった。入社式といっても堅苦しいものではない。今日は入社式なのを事前に聞かされていたけど、すっかり忘れていた。  新しく入る人を部長が紹介した。新卒で二十二才の男性一人だった。彼は緊張した面持ちでみんなに挨拶した。 「初めまして。今日からこちらで働かせて頂くことになりました杉山洋介(すぎやまようすけ)です。ご迷惑をおかけすることもあると思いますが、一生懸命頑張ります。宜しくお願い致します!」  杉山君はみんなの拍手を受けていた。杉山君は長身で細身の体で、あどけなさが残る柔和な顔立ちだった。私はこんな小さな会社に入ってくるなんて今時珍しいと思った。
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