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「なあじいさん、あんたの家にあった紫色の風呂敷に包まれた肖像画、あれってなんなんだ?」
「肖像画?」
じいさんはいままでどこかふわふわとした話し方をしていたのに、急に地に足のついたような声をだした。なんだ、あの肖像画はそんなにじいさんにとって大切なものだったのか?
「あの肖像画はわしが自分で描いたんだ」
「じいさんが自分で!?」
驚いた、あんなに綺麗な絵がじいさんに描けるだなんていままで知りもしなかった。しかしじいさんが描いたとなると、もしかして若いころのばあさんの絵だったとか? 俺は気になりじいさんに肖像画について詳しく聞いてみることにした。
「あの綺麗な女の人って誰なんだ? もしかして秋子ばあさん?」
「いいや、あそこに描かれたのは秋子さんじゃない。わしには秋子さんと出会う前にお付き合いをしていた女性がいてな、桜さんという名前にふさわしい花のような女性だった」
じいさんはふっと暗い顔をして左腕に着けた古ぼけた腕時計を触りながらこう続けた。
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