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約束を果たした彼女
夜の8時を過ぎるとさすがにもう夜も更けてきた。俺は夕食を食べて風呂にも入り、ワックスで固めていた髪を綺麗に洗ってドライヤーで乾かして部屋に入ったその時だ。
どこか視線を感じる。しかし俺は一人暮らしでこの部屋に俺以外の誰もいない。気のせいだろう、そう片付けようにもこのねっとりとした視線が無くなることはなくそれどころか強くなっている気がする。
ふと今日じいさんの家から持ってきた肖像画が目に入る。相変わらず悲しそうな顔をした女性、桜さんがそこには描かれている。
「そういえばじいさんは肖像画から視線を感じたとか言ってたよな」
肖像画から視線を感じるなんて馬鹿馬鹿しい、そう思いながらもどこかでこの肖像画から視線を感じている気がすると考えている自分がいる。
なんだか気味が悪くなってきた、とにかく何かかぶせて明日早朝にじいさんの家に行ってこれを返してこよう。そう思いそこら辺にあったタオルを手にしたその時。
バチッと音がして部屋の明かりが突然消える。
「なんだ、停電か?っうわああ!」
俺は誰かに足首をつかまれた。なんだ、誰なんだ? 俺以外の誰もこの部屋にはいないはずなのに、なんでなんでなんで。俺はその手を振りほどこうとするが、思いのほか力が強くふりほどくどころか足を引っ張られて転んでしまった。
何が起こったかわからずパニックになっている俺に、足首をつかんだそれは強い感情をぶつけるかのように言葉を投げていった。
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