Ⅹ 強められる警戒

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 ユリゼラは「そう?」と首を傾げる。その様子に、ユリゼラの前では変わりないのだとわかり、避けられているのは自分かと、少し寂しい気持ちになった。 「あなたは、抱えているものが多いし、そのひとつひとつがとても大きなことだから……私で力になれることがあったら、遠慮なく言ってね。直接解決出来ないことでも、一緒に考えたいわ」  穏やかでありながら力強い微笑みに、サクラは「ありがとうございます」と笑顔を返す。一命を取り留めてからのユリゼラは、優しさも繊細さも変わらないながら、強くなった。母になるからなのか、これからも生きていくという覚悟が備わったからなのか。サクラにはひたすら、ユリゼラがまぶしい。  心にほんわりと灯ったぬくもりを抱えながら、サクラは後宮を後にした。 *◇*◇*◇*  まだ暗い内に朝食を済ませ、メイベルが所有していた屋敷の浄化へと()つ。朝日が上る頃合いが一番、死者の魂を送りやすい……サクラがそう言っていたためだ。近衛(このえ)から二十人、受験者から百人を選び、現地へと向かう。朝の祈りはエラルに任され、彼の護衛には十人を配置した。  現地に行くと、すでにエルネスト公爵が家令(かれい)とともに待っており、丁重に迎えられる。サクラは驚いていたが、貴族からすれば至極(しごく)(もっと)もな対応だ。公爵の挨拶を受け、差し出された手に少しの戸惑いを見せつつも、そっと手を預けてサクラは馬車から降りた。  クレイセスは、前公爵にも覚えはある。メイベルの所業も考え合わせると、この男はよくまっとうに育ったなと、半ば感心しながら一連の対応を眺めていた。エルネスト公爵家は、メイベルの行動により、取り潰されていてもおかしくなかった。そうならなかったのは、(ひとえ)にこの男・クロゼイユの対応力にある。優しげな容姿と素朴な雰囲気に、サクラも臆することなく話せるようだ。彼女が世間話に興じられるほどというのも、貴族においてはめずらしい。
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