Ⅹ 強められる警戒

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 ガゼルの説明に、サクラはそうですか、と目を伏せた。手詰まり感だけがあり、もどかしさだけが心に残る。ただどうしようもないだけに、サクラは「最奥(さいおう)に戻ります」と顔を上げた。サクラが適当についた嘘を本当にするため、クロシェがテラを(いざな)い、最奥へと来るはずだ。せめて、それよりは先に戻っていなくては。  ゆったりと隣に体を寄せてきたイリューザーを撫でてから、サクラは最奥へと急いだ。 *◇*◇*◇*  それから数日。王宮は何事もなく、静かだった。  フューリアはあれから、執務室に現れていない。オフィーリアもすっかり落ち着いて、エラルも仕事に復帰した。  そんな中、(ひいらぎ)を見つけたあの屋敷の浄化が、明日と決められた。 「そう……。最近サクラは、ロゼが一緒にいないのね」  ユリゼラの体調が落ち着いていて、お茶に誘われたサクラは、後宮の日当たりのいい部屋で話をしていた。明日の浄化のことも話題に乗せれば、ユリゼラの顔が心配そうなものになる。 「ロゼですか? 最近は、森にいること、多いみたいです。寝るときには戻ってくるんですけど。青嵐(せいらん)は相変わらず時々しか顔見せないし。今はドレイクが一番、最奥にいる時間が長いかもしれません」  それにも、ユリゼラはほんのりと笑んで、持っていた茶器をテーブルに置くと、サクラの手を取った。 「杞憂(きゆう)……であればいいと思うのだけど、心に留めておいて欲しいことがあるの」  相変わらず美しいユリゼラが近接してきたのに、サクラは緊張しながら「なんでしょうか」と問う。 「あなたの身の内に見える炎……いろいろな色を発しているのだけど、私には赤が、一際(ひときわ)強く見えるの。セルシア自身は大地の化身(けしん)と認識されるものだけれど、恐らくあなたは、炎との相性がとてもいい」 「そう……なんですか? ロゼが(なつ)いてくれるから、水と相性がいいのかと思ってました」 「悪い、というのではないわ。ロゼがサクラを慕っているのは本当だもの」  にっこりと微笑むユリゼラがまぶしくて、サクラは思わず息を止めて見入ってしまう。
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