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ガゼルの説明に、サクラはそうですか、と目を伏せた。手詰まり感だけがあり、もどかしさが心に残る。ただどうしようもないだけに、サクラは「最奥に戻ります」と顔を上げた。サクラが適当についた嘘を本当にするため、クロシェがテラを誘い、最奥へと来るはずだ。せめて、それよりは先に戻っていなくては。
ゆったりと隣に体を寄せてきたイリューザーを撫でてから、サクラは最奥へと急いだ。
*◇*◇*◇*
それから数日。王宮は何事もなく、静かだった。
フューリアはあれから、執務室に現れていない。オフィーリアもすっかり落ち着いて、エラルも仕事に復帰した。
そんな中、柊を見つけたあの屋敷の浄化が、明日と決められた。
「そう……。最近サクラは、ロゼが一緒にいないのね」
ユリゼラの体調が落ち着いていて、お茶に誘われたサクラは、後宮の日当たりのいい部屋で話をしていた。明日の浄化のことも話題に乗せれば、ユリゼラの顔が心配そうなものになる。
「ロゼですか? 最近は、森にいること、多いみたいです。寝るときには戻ってくるんですけど。青嵐は相変わらず時々しか顔見せないし。今はドレイクが一番、最奥にいる時間が長いかもしれません」
それにも、ユリゼラはほんのりと笑んで、持っていた茶器をテーブルに置くと、サクラの手を取った。
「杞憂……であればいいと思うのだけど、心に留めておいて欲しいことがあるの」
相変わらず美しいユリゼラが近接してきたのに、サクラは緊張しながら「なんでしょうか」と問う。
「あなたの身の内に見える炎……いろいろな色を発しているのだけど、私には赤が、一際強く見えるの。セルシア自身は大地の化身と認識されるものだけれど、恐らくあなたは、炎との相性がとてもいい」
「そう……なんですか? ロゼが懐いてくれるから、水と相性がいいのかと思ってました」
「悪い、というのではないわ。ロゼがサクラを慕っているのは本当だもの」
にっこりと微笑むユリゼラがまぶしくて、サクラは思わず息を止めて見入ってしまう。
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