Ⅹ 強められる警戒

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 クレイセスはサクラの護衛として十名を残し、それ以外の騎士には屋敷に入り、部屋中の扉や窓、地下を開け放ってくるよう指示をする。庭にあるものも含めてだ。  この屋敷の調査は終わり、事件として関係しそうな書類のすべては引き上げた。公爵がサクラに浄化を願い出たのが早かったため、遺骨や遺体、メイベルの収集体などはそのままにしてある。サクラが施す鎮魂のあとに聖なる炎が使われるのなら、すべてが灰となり、大地に還元されるためだ。  ランプを携行した騎士たちが二十分ほどで皆戻り、灯りを落とすよう指示をする。松明(たいまつ)の炎も落とし、朝日が顔を出そうとする薄闇の中、サクラはイリューザーを伴い、屋敷へと近づいていった。クレイセス、ガゼル、サンドラ、クロシェ、バララト、カイザルが、五歩の距離を置き、等間隔でサクラに背を向けて取り囲む。遠距離からの襲撃に備えるための警護体制が整うのを待ってから、サクラが屋敷に向かって声を放った。  暗がりの静けさを、サクラの細い声がやわらかく開く。だんだんと大きくなっていく声量。呼びかけるように、包むように歌われるそれに誘われるように、ふわり、ふわりと、小さな光が現れた。淡雪が風に巻き上げられたかと勘違いしそうになるほどの、白く頼りない魂。この光景を初めて見るだろう受験者たち、公爵から、「おお……」という、小さな感嘆が、さざ波のように広がっていった。  個人所有のものというのに、隠されていた遺体は多かった。収集の対象として、一部分でしかないそれら。一体何年かけて、何人が(ほうむ)られたのか……正確なところは、調査しようもなかった。サクラの声に導かれて、苦しさも悔しさも、手放せればいいがと……クレイセスも、宙を舞う小さな光を見つめる。  雪が漂うかのような空間が広がり、それを、清冽なまでの朝日が照らした。その光の中に、雪と見紛う魂がすべて融けていくのを見て、サクラは歌い終える。そうして、パン! と手を叩くと、次の瞬間、広大な屋敷が赤い炎に包まれた。
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