Ⅹ 強められる警戒

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 エルネスト公爵が(おのの)きを隠さず、それでも「一瞬で包んでしまうなど、お見事です」と感想を述べたのに、「わたしじゃなくて、炎の精霊なんですよ」と返すサクラの声を聞きながら、クレイセスは騎士たちに、屋敷を囲むよう展開する指示を出す。民家までは多少の距離があるとはいえ、冬の強風では飛び火しないとも限らない。即座に対応できるよう、一応の備えだ。  積もっていた雪は早くも溶け、底冷えのする寒さも払われた。むしろ、ジリジリと焼かれていると感じるほど。 「青嵐」  そんな中、サクラが呼ぶと、次の瞬間には久しぶりに見る青嵐の姿が、旋風(つむじかぜ)となって目の前に現れた。 「ドレイクの火が周りに飛ばないように、お願い出来る?」 『容易(たやす)い』  言うなり、青嵐はまた姿を消す。途端に、焼かれるかのようだった熱気は(やわ)らいだものになり、クレイセスはなるほど、と精霊を使役(しえき)することを覚えたサクラに、セルシアとして成長していることを感じた。  サクラの胸元からはロゼが、燃え盛る屋敷を不思議そうな面持ちで眺めている。 「サクラ様は、今、精霊とお話をなさっていた……のでしょうか」  公爵の問いに、サクラは「あ」と口元を抑えた。 「そうです。近衛騎士たちにも見えるようにしてたから、つい。びっくりしましたよね。盛大なひとりごと」 「いいえ。先程の鎮魂の儀式もですが、サクラ様のお力は本当に、尊いものだと。私の目には見えませんが、不可思議なこれらの力を制御なさっているのがサクラ様だということは、感じることが出来ます」  本人の素直な感想なのだろう。クロゼイユの言葉に、少し照れるように赤くなったサクラに、クレイセスは小さく溜息をついた。 「ドレイク」  それから十分ほど()って、サクラがドレイクを呼ぶと、屋敷の中からドレイクが出て来て寄ってくる。その姿はいつもよりずっと大きく……己の力に、酔っているようにも見えた。 「どう? もう全部、大地に(かえ)せそう?」 『すべては、無に還した』  サクラの眷属(けんぞく)であることを示す赤い瞳が、妖しく揺れる。それに、サクラは「ありがとう」と言って笑みを見せ、「お疲れさま」とドレイクに手を伸ばした。
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