Ⅺ 襲撃からの脱走

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 こうして当たり前のように話をする距離感は、彼がセルシアだった時代にはなかったことだ。その前に、補佐官だった時でさえ。この変容はそのまま、時代の移り変わりだと、ガゼルは思う。その時代を作っているのは、間違いなくこの少女だ。……最近は、「少女」と呼ぶには(いささ)か無理のある貫禄を身につけてきたけれども。 「今日は、ガゼルさんだけですか? 一人だけっていうのも、めずらしいですね」 「いえ。あとでケシュフェルとファロが来ます。補佐官の護衛には、ビルトールとアルゼットが。この捕り物、大掛かりなのに急だったので、朝の時間までには体制が整わなかったのです。申し訳ありません」  謝罪の言葉を口にすれば、「それは別に」とサクラは笑う。 「それより、その賊は捕縛できそうですか?」 「クレイセスは、一人残らず生け捕る予定でいますよ。近衛騎士と受験者、王都の治安維持隊、総勢で約百名動員なんです。向こうも多少追われる程度は想定してると思いますが、この規模は泣くんじゃないかな」 「泣いて欲しいですねえ、是非」  フィルセイン戦から立ち直るだけでも手一杯なのだ。それを横から挫く行いを、サクラも憂慮している。王都においてもそれらの影響は、じわじわと出てきつつあった。 「サクラ様。もう一つ、懸念事項が」 「新しく、何か?」 「以前、ラグナル殿からフューリアの件について忠告がありましたが」 「彼はまだ、企みを諦めていないんでしょうか。何か動きが?」 「はい。護衛と称して、五人ほど傭兵を雇ったようです。それと……こちらを」  これは、最後まで見せたくなかった、と思いながら、ガゼルは新聞を手渡した。 「ときめき通信……? くはっ……」  渡された新聞の一面を見て、(あるじ)は砂を吐きそうな呼吸をした。
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